エルモがミュージカル、プロコフィエフの「ピーターとおおかみ」に挑戦するにあたり、愛嬌たっぷり毛足もたっぷりのおなじみエルモと、音響効果抜群の上品なコンサート会場―その名もボストン・シンフォニー・ホール―を取り合わせるという、意表をつく離れ業に挑んでみせた。一見ミスマッチとも思えるニ者の相性はぴったりで、あえて語られはしないがその目指すところ―クラシック音楽が持つ堅苦しさを取り払い、セサミならではの迫力とわかりやすさを加えて、小さな子どもたちにクラシックをもっと身近に感じてもらおうというねらい―は見事に達成されている。
   ボストン・ポップス・オーケストラのチケットを手にピーターの森への案内役をつとめるのはベビーベア。楽屋で指揮者のキース・ロックハートに会い、たくさんの種類の楽器をひとつひとつ詳しく、わかりやすく紹介してもらったおかげで、年端のいかぬベビーベアにもどの楽器がどの役を演じているのかわかるようになる。お気楽なピーターを演じるのは農夫姿のエルモで、ヴァイオリンのソロをバックに注目を集め、フレンチホルンは恐ろしげな音を出して狼の登場を告げる。狼といえば獰猛（どうもう）なのが定番だが、ここでは紫色の毛をしたたわいない狼だ。
   近年、音楽教育の効能を福音のごとく説く傾向が過熱しつつあるが、そうした幼児教育の一環としても、この45分間の名品は重宝されることだろう。魅力にあふれ、思わずクスクス笑ってしまう仕上がりで、古典童話への足がかりにもうってつけの作品。大人も子どももエルモのピーターには大満足だろうし、勇敢だけれど無鉄砲なピーターのおじいさんにはビッグ・バードが扮し、バスーンの音色をバックに翼を広げて見せる。（Tammy La Gorce, Amazon.com）