“親子愛”がもたらす痛烈な皮肉
★★★★☆
本作は、何者かに殺害された人気作家ジョフリーの幼馴染で、
歴史学者のモーリスによる一人称の語りで構成されています。
モーリスが、ジョフリーの伝記を執筆することになり、その過程で、
自然と事件の真相を究明する探偵活動も行わせるという設定は、
地味ながらよく考えられています(歴史学者という職業もミソ)。
ただ、関係者たちの悪意や、陰鬱で気が滅入る人間模様が描かれていくなか
に、逆転の発想ともいえる決定的な伏線を忍ばせる手際は堂に入っているの
ですが、犯人特定のロジックと呼べるほどには昇華しきれていないのが残念。
その伏線を何らかの手がかりとして具象化した上で、
最終局面の演出も、もう一工夫欲しかったところです。
とはいえ、ラストで読者に突きつけられる真相――親子愛に基づく――
の皮肉は痛烈で、ディヴァインらしい“毒”を存分に味わうことができます。
ロジックで犯人当ての好きな方にオススメ
★★★★☆
1960〜70年代にかけて、英国で黄金時代を引き継ぐ
本格探偵小説の作風を継承した作品を残した著者の、
最近になって邦訳された諸作の一つ。
2008年の週刊文春ミステリーベスト10で
海外部門第8位となっております。
歴史学者のモーリス・スレイターは、
幼馴染みの作家ジョフリー・ウォリスに招待され、
彼の住むガーストン館に滞在することになります。
モーリスは、ジョフリーの妻ジュリアから、
夫の様子がおかしいと相談を受けており、
夫は兄のライオネルから脅迫を受けているようなのです。
果たして、ある晩、ジョフリーは行方不明になり、
兄のライオネルも姿を消します。
そして、発見された射殺死体…。
モーリスは、行きがかり上、
事件の捜査を行うことになります。
やがてジョフリーの過去や、
彼を取り巻く人間関係が明らかになっていき、
最後に真犯人が明かされます。
この作品、読みどころは、本書解説によれば、
「作者のファインプレーが光るフーダニット」だそうです。
しかし、正直なところ、私にとっては、
特別意外な犯人ではありませんでした。
途中から誰もが怪しくなってくる展開なのですが、
この書きぶりだと、犯人はこの人では、と予想した人物でした。
でも、これではなぜ高い評価を得ているのか分からないので、
いろいろと書評を探ってみると、分かりました。
かなり、うまい伏線が張られているのです。
作品の最後に犯人を決定づける重要な事項が示されるのですが、
そこに行き着くためのかなり大胆な伏線が
何箇所か張られているのが、本書の特徴です。
ただし、私は残念ながら、
読み終わっても気づきませんでしたが…。
そこで、本書の感想ですが、
この作品は、私のような勘に頼って犯人当てをする人間は駄目で、
伏線を見極めながら、
論理的に犯人探しをするような方(極めて通のミステリ読者)
に向いているのではないかと思いました。
そうした方なら、必ずや楽しむことができるでしょう。
犯人の意外性はあるが.......
★★★★☆
「悪魔はすぐそこに」を読んでから本編を読んだが、前作に比べるとパズラーとしての組み立ては弱い。何度読み返しても、これでは犯人はわからないのではと思う。
1つの条件が成り立てば犯人は最初から1人しかいないと総括的に言ってはいるが、その条件とは1つの仮定の元に推理されると成り立つ条件であり、最初から絶対的事実として存在しているものではない。(多くは書けないのですが)
ただ犯人の意外性は結構仰天もので、一物も二物もあるうさんくさい家庭内での殺人というプロットは個人的に好みなので、楽しんで読むことはできた。
王道ミステリー
★★★★☆
小難しい展開もなく淡々としてるのに妙に納得させられました。
結構みなさんは途中で犯人が分かったみたいやけど、私自身は最後の最後まで分からずに犯人を知った時にはビックリでした。
これって最近のドンデン返し型ミステリーを読みすぎてるせいなのか、深読みしすぎるんですよね(笑)。
登場人物の背景も深く掘り下げられてるので、それぞれの事情があり誰でも容疑者になりえるところが巧いです。
原作は約30年近く前の作品やけど全然色褪せてなかったです。
最近では少なくなった王道ミステリーやったので楽しめました。
登場人物の性格描写もパズラーとしての出来も今一つ
★★★☆☆
帯に「英国探偵小説の王道」を行くとのコピーが付けられた作品。確かにロンドン郊外の田園にある館を中心としたミステリなのだが、全体的に迫力に欠け、パズラーとしてもさしたる出来とは思えない。物語は歴史学者のモーリスの一人称で語られる。
モーリスが、少年の頃からの知己である人気作家ジョフリーの館に招かれる所から物語は始まる。ジョフリーには悩みがあるようだ。その原因は突然現われた兄のライオネルである事が示唆され、実際にジョフリーがライオネルの家を訪れた晩、殺人事件が起こる。最初は被害者はライオネルと思われたが、実際はジョフリーだった。これでライオネルが犯人では流石にミステリにならないので、ここから様々な伏線が散りばめられる。しかし、モーリスの性格が温和に設定された事もあって、関係者の描写が穏便に過ぎる。"館もの"の一種なのだから、作中、悪意が満ち満ちていると言う雰囲気にして欲しかった。一方、物語の進行に連れ、ジョフリーはモーリスからも嫌われていたイヤな奴で、ジョフリーの過去を調べるに連れ、更に嫌悪感が増すと言う展開。これが、様々な動機の可能性を産み出してはいるのだが、本命は自然と分かってしまうので、効果的とは思えない。このジョフリーの過去の暴露劇と結末近くのモーリスと犯人との追走劇が、終盤に唐突に纏めてやって来るのも、巧みな構成とは思えない。モーリスが真犯人を突き止めた際、担当警視が「我々にも分かっていたんですよ」と言う始末。
登場人物の性格描写もパズラーとしての出来も今一つ。もっと登場人物の個性を強烈にして、読者を物語に引き込めばミステリとしての出来も良くなったと思う。