女流作家ならではの怪談を期待したが、全体として平板な出来
★★☆☆☆
主に20世紀初頭に活躍した女流作家の怪談を集めたアンソロジー。女流作家ならではの生理的嫌悪感や酷薄さを期待したのだが、全体として平板な出来。
殺人や恋人の裏切りによって悶死した人間が幽霊化する、と言う様式がパターン化されており、しかもそれが登場人物に認知されているので、オドロオドロしさが感じられない。そうした幽霊が家や土地に取り付く、いわゆる地縛霊となって登場人物を驚かす(あるいは呪い殺す)と言うのもパターン化されている。洋の東西を問わず、こうした考え方は共通なのだと思った。怪談と言うより、因果譚である。
その中で、編者シンシアの「追われる女」は小泉八雲を思わせる、定番とも言える怪談のスタイルだが、作品の構成力で一気に読ませる。そして、世評の高いシャーロット「黄色い壁紙」は、繊細なヒロインの心理の細かい変化で展開を繋ぎ、徐々に恐怖感を盛り上げて、えげつないラストに持っていく秀逸な作品。
書かれた時代が古いと言う事もあって、作品も古めかしさを感じるが、それだけに味わいのある怪談を描ける素地があった筈だ。もう少し、捻りや切れ味のある作品が欲しかったと思う。
楽しめるが、怖いわけでは無い。
★★★★★
既に、クリスマス休暇であり、通貨に主軸を移して
仕舞ったので、日経先物の頃よりも早く、年末年始の
休暇に入っている。休暇の過ごし方自体は例年通りだが・・・。
さて、女性作家たちによる恐怖小説集の本書について。
此れは、決して「性差別」的な意図での発言ではないのだが、
どうも、「女性の怖がり方」と言うのは「女性特有」の
ものの様に、男の私には感じられる。
・・例えば、テーマパークの「ホーンテッドハウス」での
デート等が、最も判り易い例だと思うが、女の子たちは
自ら、率先して「怖がろう、怖がろう」としている。
丸で、彼女たち自身の「先入観」で怖がろうとして
いるかの様である。・・
本書収録作品も同様で、「積極的に怖がろう」として
読まなければ、怖くは無かろう。尤も、怖くは無くとも
怪奇短編小説として、楽しめるし、面白いのだが。
本書収録作の中での「目玉商品」の様な位置づけの
『黄色い壁紙』にしても、「読み方」次第では
「精神衛生養生訓」の様にも読める。
詰まり、メンタル・ヘルスの点では以下の2点が肝要と判る。
1.睡眠を良くとる。
2.プライヴァシーを確保する。
21世紀現在では日本でも「睡眠障害」は特別な問題ではない。
精神科でなくとも、内科・心療内科で催眠剤・睡眠導入剤を処方してくれる。
2については、ヴァージニア・ウルフが「19世紀以前に、女性が
一人きりでものを書ける『スペース・空間』が確保出来ていれば・・・」と
言っていた、豪く大時代な問題。家族の「過干渉」にそれほどまでに悩んでいる
日本人女性が、2008年末現在にどの程度いるのだろう。
明治時代の閉塞的な寒村じゃあるまいし・・・。
少し、話が逸れるが『ねじの回転』の様なジェイムズの作品も
あの時代のイギリスと言う時代状況・社会環境だから、「文学的意義」が
あったのだろう。今、読んでみると「家庭教師のヒロインが、外部的環境や
人間関係に悩みまくってノイローゼになっただけの話」とも読める。
・・「ヴォイジャー」では、キャサリン・ジェインウエイ艦長が
ホロプログラムの「趣味の世界」として気分転換的に楽しんでいた。・・
話を、本書に戻すが、『蛇岩』等は、岸田今日子の朗読で
ラジオ番組にしても、30年前なら兎も角、現在では大して
聴取率が取れそうも無い。今日的状況では、そんな風である。
夢もロマンも、身も蓋もないレヴューになってしまったが
「本気・マジ」になって読むと本当にメンタルの点で
一寸した「クライシス」を体験する可能性あり。
補足
『空地』は不動産投資を遣っている方や、これから
始めようとする方、また、マンション・一戸建てを問わず
マイホーム購入を考えている方は、若しかすると
怖いかも・・・。
洗練された恐怖
★★★★☆
桜庭一樹読書日記で「黄色い壁紙」について触れられていて、興味を持って購入した。
当たり外れのばらつきがかなりあるが、怖い作品はかなり怖い。
正直「黄色い壁紙」は期待していたほど怖くは無かったが、読後殺伐としたものを感じる。
予備知識なくこれを読んだら相当怖いと思う、悪夢を見るほどに。
主人公の女(名前も出てこない)は神経を失調しており、夫は彼女を過保護に扱うのだが、それに反比例して彼女はどんどん病んでいく。
原因は夫婦の寝室の黄色い壁紙。
まずこの壁紙の描写が怖い。
「球根のように垂れた眼球」とか「延々と続く毒茸の列」とか、想像しただけで発狂しそう。
だがそれより怖いのは、日記形式で語られる淡々とした描写。
主人公は夫に感謝しつつも一方で不満を抱き、自分を仕事に復帰させてくれない夫を呪う。
どうもこの日記の記述が矛盾しており、錯乱した箇所も見受けられる。最初はこう言ってたのに、次の行では全く違うことを言ってるとか、それが殆ど地続きなのでもやりとした違和感が残る。
彼女には産まれたばかりの男の子がいるのだが、夫や義妹についてはしつこいほど語られてる反面子供の事は数行しか出てこず、それもお義理で触れられてる程度。
日記形式で綴られているだけに、黄色い壁紙以上に主人公の心理に冷え冷えしたものを感じる。
「蛇岩」も面白かった。こちらは母娘二代にわたるどろどろ愛憎もの。一族にかけられた呪い、岸壁の古城、蛇の形をした奇岩をめぐるゴシックホラー。「です・ます」調の訳が奇怪な雰囲気を出すのに一役買っている。母親が泳ぎに興じる娘を古城の窓から常に監視してるのが怖い。
「名誉の幽霊」のユーモラスな雰囲気も気に入った。こんな楽しい幽霊なら家にいてもいいなあ。
彼女たちはとても早く這う。
★★★★☆
19世紀半ばから20世紀半ば頃に書かれた12の短篇。
特に、ギルマンの 『黄色い壁紙』 に満ちた 「嫌な感じ」 は凄い。ぞわぞわと怖い。
彼女たちはとても早く這う。
少し古い時代の怪奇小説には好みのものが多い。
想像の余地を残しているものがいい。
なかなか楽しめました
★★★★☆
英米の女流作家たちの怪談集
読後の印象がそれぞれに深く、楽しめる怪談集。
「黄色い壁紙」
最初に読んだ時、意味が分からずもう1度読み返してようやく意味を知り、いや〜な気持ちにさせられた作品。語り手の内的変化を表す描写がない分、情け容赦がない。このねじれに最初に読んだ時、気付いてなかった。
「名誉の幽霊」
ユーモラスな筆致でありながら、最後にドキッとさせられる。落ちは誰もが気付くようなものだが、それまでがユーモラスであった分、効果は倍増。
「蛇岩」
絵画的な描写で幻想の世界の話を読んでいるような気にさせられた。描写が頭の中で映像化され、それでいながら幻想的な靄がかかる。静かな余韻に浸れた逸品。
その他、計12編を収めた短編集です。