人間は所詮環境の力には勝てない生き物であり、人生は救いのない惨めな負け戦である、とするのが自然主義であり、ドライサーは、アメリカ自然主義の代表者の一人と言われている。しかし、この作品は、それほど自然主義の色合いは強くない。キャリーの元恋人ハーストウッドだけが、惨めな負け戦を一身に背負っている感がある。
ロマン主義が好きな人は、暗くて重い自然主義の作品を敬遠しがちであるが、この作品は、テンポも軽くストーリーも面白い。
何より、あっと息を呑むような顊??い心理描写が随所に散りばめられているのが魅力だ。例を挙げると、キャリーが自らの弱さを明確かつ本能的に認める箇所や、落ちぶれたハーストウッドのぎりぎりの自尊心の描写などは、真に迫るものがある。
読者は、この本の結末に人生の不条理さを感じるかもしれないが、それとまた同時に、見果てぬ夢を見続けるキャリーに自らを重ねてしまうのではないだろうか。