その作品でも相当にいかれた結末なのだが、他の意味であまりの物語的破綻ぶりに、受けた衝撃はかなりこたえた。まるで自分の小説とのつきあい方というものに対してに、ずしりと新しい錘をかけられたみたいだった。その『サヴェッジ・ナイト』結末以来の破壊的なラストが本書にはある。
破滅的なラストというのならわかるのだ。登場人物たちが皆殺しになって何もかもが物語の中でペシミスティクな週末の迎え方をして、読後に空しいほどの後味の悪さが残るとでも言うのならそうではなく、本書のラストは、まさに物語から断裂し、破綻している。ほとんどの読者を置き去りにして。
単純極まりない犯罪小説である。ある女と出会い、その女に、性格が破綻したかのような主人公の訪問販売員が心を奪われる。汚穢のなかで呼吸を続けてきたような男の人生にとってはまるで自分の中の他人のように、それは新しい感情だ。その違和感を同居させながら、男は破滅に向かってただただ一方的に堕ちてゆく。
雑な計画から雑な殺人、継いで感情的な殺人へと男は狂ってゆく。冷酷でエゴイズム剥き出しの男は語りの中でさえ嘘をつき始める。前衛的な描写によってトンプスンは読者を圧倒する。男はやたらに読者に話しかける。胡散臭さでいっぱいの毒々しい声がまるでこちらの脳内にまで響いてくるようだ。悪夢的体験。これぞジム・トンプスン! という作品的流れだろう。
そしてすべてが悪夢の中に終わる。手が離せず、何度か読み返す。これぞ、ジム・トンプスン! そう言える掛け値なしの一冊だ。敢えて普通にはぼくはお薦めいたしません。ぼくは大好きだけれども。