「奴』や「かぶき者』と呼ばれた江戸のはねあがりものたち
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江戸時代、「奴』や「かぶき者』と呼ばれたはねあがりものたちがいた。
彼らの心情は、特に「旗本奴」と呼ばれた武士の場合、
「食べ物はふわふわした柔らかいものを嫌い、衆道を好み、刀は焼きの強いものを好み
人の頼みは決して断らず、人のためには命も賭し、上様を敬い、年長のものをたて、
性根が据わり、武芸に秀で、人のできない事をやり、敵対したものを許さない」
という気風だったという。
ではそんな江戸の社会で、
殉死は、心中は、賄賂は。仇討ちは、将軍は、尾家騒動は、
どうあったのか、江戸学の大家、三田村鳶魚の著作をきっかけにして
するどい洞察を巡らす。
名将軍と言われる、家光が暗愚だったという説には目を見張る。
忘れられた江戸時代〜江戸学の開祖に学ぶ
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三田村鳶魚は大正・昭和の時代の江戸時代博士で、江戸学の開祖と言われる人。
その鳶魚を酒のサカナにして、当代随一の江戸時代博士・山本氏が語りつむぐのだから、面白くないはずがない。
とはいえ、本書は鳶魚の業績をとっかかりにして、さまざまなエピソードを語っていく形式にしているので、著者の鳶魚へのリスペクトや愛情を形にしたものということなら、『鳶魚で江戸を読む』の方をお奨めしたい。
個別のエピソードを紹介していくと・・
「荒木又右衛門の仇討ち」
映画や小説では、又右衛門の義理固さや強さが見る者の心に響くのだが、史実の経過をじっくり見て行くと、この事件の本質は大名と旗本の意地の張り合いだという。刃傷沙汰をおこした犯人を匿った旗本と、それをメンツにかけて赦さない大名。旗本はなぜ犯人を匿うのか。それは近世初期にはまだ戦国時代の「かぶきもの」の心性が色濃く残っていたからだという。殺伐とした時代の武士の倫理として、庇護を求めてきた者を突き放すことはできなかったというのである。又右衛門もまた、自身が義理固いということもあるが、それ以上に世間からの見えざるに従ったのが真相だという。
「等身大の女性史」
元禄時代、浅草に住んでいた容姿美しい紙屋の娘の話。良い縁談がまとまりかけていてところをたばこ屋の息子に妨害され破談にされてしまう。このことを恨みに思った娘は、たばこ屋が自分に近づいてくるの待ち、油断させて剃刀で鼻を削ぎ落した(!)という。江戸時代の女性と言うと遊女=虐げられた存在、というステレオタイプに対して、その誤りを早くから指摘していた鳶魚の業績を紹介しつつ、この気丈な娘のエピソードを紹介する。