重厚な人間ドラマ
★★★★☆
この二編はおろちがあまり活躍しないので、その辺ちょっと物足りないかもですが、少年誌(本作は少年サンデー連載)の範疇を遥かに超えた重厚なドラマが展開します。「ステージ」は、一筋縄ではいかない復讐劇。「秀才」同様、人の恨みというのはいつまでも消えることはないのだな…と思い知らされます。「戦闘」は、ショッキングなメインテーマ(ここでは伏せます)を、父と息子の関係を軸にして、ミステリー風に構成した力作。心理描写も秀逸。
おろちが高校生に
★★★★★
何が凄いっておろちが高校生になっている・・・というのは冗談で、お話がすごいです。一度読むと忘れられない強烈な印象を残します。この単行本には2話収められていますが、1話目はいつも優しく親切な父親が、南方で戦時中死んだ仲間の「人肉」を食べて生き延び、それを父親を尊敬していた息子正が知ってしまう、というお話です。ジャングルの中で生き伸びるために人肉を喰う・・・凄いです。息子の正が、父親に鬼!と叫ぶ気持ちが痛い。誰がそれを裁けるのでしょう?食べられた死者はもう何も語れないのです。最後二人はどうなるのでしょうか?私もおろちのように二人を見守るしかない、という気持ちがします。読者である私も、正の父親を裁くことなど出来ないのですから。実際先の大戦中ある戦場ではそういうことが本当にあったという話もあるらしく、さらにいっそう重く考えずにいられません。2話目は強盗に襲われた赤ん坊の優が、その事件を境に母親に異常なほど激しく躾けられるようになります。優は訳がわからず泣きます。母も泣きます。けれどもまた優をののしり、毛嫌いするのです。その訳は?そして訳を知りながらも、ある日突然文句も言わず母の言うことを聞くようになった優の心中は?なぜ母が激しく息子を叱りつけながら泣いたのか、何故ひどく毛嫌いしたのかがラストではっきり分かりますが、最後にみんな父も、母も、そして優も泣きます。そしておろちはそっと放れていきます。(にくしみあっていたとしてもこんなに長い間・・・そうこんなに長い間いっしょに生活してきたのだ・・・ふたりは親子なのだそうでなければここまでいっしょに生活してはこれない・・・)このような強烈で印象深いお話を読んでいると、綺麗にまとめられたお話などでは満足できなくなります。人肉を喰う話など、軽くまとめられる問題ではありません。随分昔に読んだのに忘れられなくて、単行本を買ってしまいました。
これぞ復讐劇
★★★★★
「ステージ」は、若干うまく仕組まれすぎかなーという面もありますが、それを差し引いてもありあまる読み応えです。ほんとに足の長い復讐劇!人はここまで執念深く生きられるのだなあと恐ろしくなります。
長くても名編
★★★★☆
二巻のレビューでも触れましたが、この巻収録の二編は両方とも男性に焦点が向けられています。
『ステージ』は『おろち』屈指の名編。父親を無残にも目の前で轢き逃げされた幼き男の子は、犯人の顔を覚えていたにもかかわらず裁判では取り合ってもらえず、その子どもという境遇のゆえの無力を悟る。やがて面した愛する父の仇に対して彼の企てたのは、最も効果的な、最も絶大な形での復讐だった。手塚治虫『ブラックジャック』『七色いんこ』中のエピソードにもけして劣らない、緊迫の復讐劇です。
『戦闘』はすばらしく優しく高潔な父親を持った息子の話。あまりにも善良なその父親の行動に彼は戸惑いを覚えつつも尊敬を抱いていた。が、ある日、隻腕隻足の老齢の男が息子の前に現われ、あまりに衝撃的な事実を語り聞かせたことから、彼の生活は一転、暗く重いものとなる。
今回の巻は『ステージ』に対し『戦闘』が圧倒的に長いため、他の巻より読みにくく、また、『戦闘』は扱っているテーマが重く、話の筋立てが比較的軽視されているので、やや冗長に感じられるかもしれません。それでも、『おろち』随一と言ってもよいほど綿密に、深い描写をもって描かれた「あの」場面は、言葉を失ってしまいそうになる強烈な印象を読者に与えずにいられません。やはり読むべき作品でしょう。
今回、他に気になったのは『ステージ』の扉絵! 楳図ファンにとって、扉絵は『わたしは真悟』のものが有名ですが、この頃から楳図先生のセンスはずば抜けていた!
小学生に読ませると…
★★★★☆
大人になるとあまり感動しないが、墓場から生き返って来たり、子どもにはかなり効く中身ですね。
私は、30年前にこれ(第3巻)読んで眠れませんでした。最後が悲惨(ここには書けない内容)ですが、この頃の楳図作品は、類似の終わり方が多かったですね。