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不自由な心 (角川文庫)

価格: ¥660
カテゴリ: 文庫
ブランド: 角川書店
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締め付けられる人生の欠片。 ★★★★★
こういう物語を、いくつ乗り越えれば、人生は楽しいのだろうか。

哀しみ、喜び、重たい欠片はなかなか他人には見えないし
伝えることもない。

 また、必ず読み返すことになる名作が響く。

何も知らず、すべてが輝いていたかのような子供のころに
戻りたくなるような、
すこし寂しく、共鳴できる場面がこころに響く。
救われない魂の孤独 ★★★★★
白石一文「不自由な心」は「怒りの書」である。本書には「救い」がまったくない。これは白石作品の中では極めて珍しいことである。人生に虚無感を覚えている主人公たちが、「彼らに振りかかるさまざまな出来事と、その時々の考え」を積み重ねることによって、最後には虚無感から救われる、というのが彼の作品のお決まりのパターンだが、「不自由な心」はそうではない。主人公たちは最初から最後まで、ただただ、やるせない状況にいる。ただただ、混沌とした憂鬱の中にいる。ただただ、行き場のない孤独感の中をさまよっている。
 「不自由な心」は5編の物語から構成されている短編集である。どの作品も中年のサラリーマンの物語である。会社の中でしっかりとした地位にいて活躍しているが、それぞれ家庭に難しい事情を抱えている。デビュー作である「一瞬の光」の1年後に世に出た第2作目であるが、「あとがき」から考えると「一瞬の光」より6,7年前に書かれた物語だという。時期的には白石が35歳、36歳くらいの頃で、おそらく勤め先であった文藝春秋社で記者としてバリバリ働いていた頃だろう。しかし政治記者として活躍する一方で、40歳手前で「最愛の息子を放り出して家を出た」と山本周五郎賞の受賞エッセイに記してあるように家庭は冷めていたものであると思われる。

 社会人として世間的に立派な地位にいて社内でも評価されているが、自分の家庭や生活を見たときの、その空虚さ・・・・

 この頃の感覚が、「不自由な心」の主人公たちの「どこにも行き場のない孤独感」に表されているのではないだろうか。(「一瞬の光」の橋田にも言えるが)

 そして、そんな主人公たちは沸々とした怒りを抱えている。「真面目に生きてきたのに自分はどうしてこうなってしまったのか。」「頑張って生きてきたのに、なんでこんなに人生が辛いんだ。」というどこにぶつけていいのか分からない怒りが全体に漂っている。

 そして5人の主人公たちは、そんな心の空虚さを優しくなでてくれるような、心安らぐ人に出会う。
 しかし、家庭などあらゆる束縛がその人と結ばれることを妨げる・・・

 世間的に「勝ち組」になるため、親や常識が教えるように、良い大学を出て良い会社に入って、真面目に働いて、高い地位に着き、美しく家柄の良い女性と結婚したのに、何故こうも空虚なのか。別れようと思っても、子どもがいればもう自由はない。経済的にも苦しめられる。なぜ自分は愛情のない結婚をしてしまったのか。なぜ、ミスをしたのか。なぜ、心の触れ合いよりも「どう見られるか」を選んだのか。

 「本当に安らぐ人」に出会えても、もう取り返しがつかないところまできている。頑張って生きてきたのに、なんでこんなことになってしまったのか・・・。


嫌というほど人間の業を書いた作品集 ★★★☆☆
全体的にどの話も、冒頭部分が普通な割に読み終わるとものすごく重いです。人生のなかで背負ってしまった業の重み(等)にあえいでいる主人公たち。読んでいるうちに彼らに感情移入してしまったので、読後、何とも言えない恐怖にさいなまれました。 展開や設定も、作品タイトルや作品紹介からは想像できなかったものが多く、普段なら避けて読まない類の話でした。 うっかり恋愛ものと思って無防備に読んだので、ダメージが大きいです。
実はポジティブな生き方 ★★★★★
苦悩しながら生きるということは、現在進行形で試行錯誤しているということで、だからこそ進歩がある。だとすれば、それが行動に現れていようが、現れていまいが、ポジティブに生きている姿なわけで、ここで表現されている登場人物は、その意味で、好感が持てる。この作者は、自身の内面を見つめながら、ポジティブに生きようとする人物を描こうとしている。その点で、大いに共感を味わうことができる。現実の世界は思うように行かぬ、しかし、それにどう対峙していくか、という点で、同じ営みをしている、しようとする読者の支持を得るのであろう。私には、この作者の表現方法が、とてもすんなりと心に落ちる。
世代間の断絶 ★★☆☆☆
「不自由な心」が最も印象深かった。
特に、不倫の決着を迫られて啓介が逆ギレする場面。
建前で生きてきた中年と心のままに生きようとする青年の対比が鮮やかで、それでも心の底では両者とも分かり合っている感じが良かった。
それにしても、女の方の言い分や人物描写のない、男中心な展開に、
北野映画と同じ違和感がある。島耕作とか。