色んな要素が絡み合った、“香納流ハード・ボイルド”超大作
★★★★☆
’06年、「このミステリーがすごい!」国内編第7位に輝いた、文庫上・下2分冊にわたる超大作である。「このミス」の解説によると、本書は、’99年に「第52回日本推理作家協会賞」を受賞した『幻の女』と並ぶ、香納諒一の畢生の傑作ということである。
物語はふたりの女性の惨殺から幕を開ける。そしてこの猟奇殺人を追う、組織から逸脱した刑事、孤独な殺しのプロフェッショナル、そして謎の真犯人と、三者の追跡と闘いを、真正面からたっぷりと描いている。
少年犯罪、犯罪者は本当に更生するのか、といった問題、それに暴力団の抗争、プロの殺し屋、警察内部のキャリアとノンキャリアの問題、公安と刑事課との綱引き、警察内部の腐敗構造、あるいは被害者の人権、復讐、そして猟奇殺人・シリアルキラー、サイコサスペンスといったことが複雑に絡み合って、“香納流ハードボイルド”ストーリーは展開してゆく。
刑事にしろ、殺し屋にしろ、他人の心を操る謎の殺人者にしろ、その過去と生き様は、それぞれ、それだけでひとつの作品ができそうな重みとボリュームを持っている。
加えて、初出が、『別冊文藝春秋』の連載だったこともあり、各章にヤマ場が設けられており、これだけの大長編を飽きることなく読ませてくれる。そして第五章の「慟哭」で物語は大きく転回し、第六章(終章)の「暴走」で、刑事と殺し屋が出会った時、衝撃と感動の大団円が待っていた。
本書は、香納諒一が構想執筆に6年を費やした、読み応えじゅうぶんの大作である。