中年男性向けの、センチメンタリズムたっぷりの物語
★★★★☆
1999年度日本推理作家協会賞受賞作。
いかにも日本推理作家協会好みの小説である。
梟の拳もよかったが、本書も中年男性の哀愁たっぷりで、
丁寧な作品作りがされている。
そういう意味では、この作者は、読者のことをよく考えて、
作品作りをしているように思う。
さて、内容だが、
この本は、男性にしか受けないんではないかと思うほど、
男性の側の女性に対する一方的な思い入れで貫かれている。
特にラストなどは、これぞ男性の理想とするところという感じである。
だから、かなり好き嫌いのはっきり分かれる小説だと思う。
ハードボイルドの定型という形をとりながらも、主人公はタフではなく、
性格的には、ハードボイルドと対極にある設定となっている。
この点は、弱点とはならずに、逆に本作に深みを与えているように思う。
こういう小説を読むたびに、
恋愛において、男は一本のまっすぐな道を歩いており、
振り返れば、別れた女性が見えるが、
一方女性はというと、
別れのたびに角を曲がってしまうので、
別れた男のことなど見えないという
明石家さんまの名言を思い出す。
いまでも、昔の恋人を思い出すという
中年男性にはぜひともお薦めである。
作りこまれている作品。作者のこの作品に対する入れ込みが感じられる。
★★★★☆
【5年前に姿を消した恋人が再会した次の日に殺害される。
彼女の死の真相を知るため彼女の過去、故郷を調べてみるとそこには彼女以外の女性の少女時代があった。
彼女は何故他人になりすまし、彼女は何故殺されたのか。。】
展開は地味で前半は派手な山場などないのに凄く整理されて書かれているのでスムーズに読まされる。
若干、物語の背景にある工場誘致問題の関係性がややこしい、、世代的にバブルを経験してる人のほうが物語の背景を理解しやすいハズ。
後半の怒涛の展開、しかもまさかの…後半は詰め込み過ぎな印象。
主人公の暴走と自己満足だけで終わりそうなところに最後の最後で救いがあったので星4つ。
作りこまれている作品です。
これだけは凄い
★★★★☆
以前から注目していた作家なのですが、「石の狩人」を読んでここまでかの感が強く(石の狩人はそれなりに面白いですよ)久しく遠ざかっていたのですが、信頼できる友人から<絶対読め>といわれ読んだが最後、やめられませんでした。凄いの一言。何故無くした女をさがすのか?を自分でももてあまして問い返す意味が等身大のままですばらしい。ハードボイルドではありえないのですが敵方の暴力にすぐ屈してしまい弱いままの姿がまたなんともいえない。是非一人でも多くの方に読んでもらいたい作品です。あまり世間には評価されない傑作の一つです。ただ一点、主人公が真の真相に迫る契機になった場面の人物は名を伏せずそのまま出した方が効果的だったと思います。
愛着の沸くオヤジの陶酔
★★★★★
オッサンというか、男性のロマンシチズム満開のミステリー小説です。
しかしそのロマンシチズムのこっ恥ずかしさを自覚して突き放したところもあり、
女性が読んでも白けて嫌になることはありません。
と、いうか主人公の失った女に対する執着と暴走に、むしろ惹きよせられ感情移入してしまいます。
脇を固めるキャラクターにも魅力があり、映像がくっきりと頭に浮かぶ作品です。
お好みの中年俳優を主人公として頭に浮かべて読むとより楽しめます。
愛した女の謎の過去については、分かってみればありきたり、というところですが、
奇抜なものを期待しなければ十二分に楽しい小説であり、700ページの分厚さは全く気になりません。
本屋では地味にお勧めされていましたが、店頭で絶賛されてたミステリーよりはるかに楽しめました。
映像化して欲しいですね・・・普通のサスペンスドラマ枠では嫌ですが。
無意味に長い
★★☆☆☆
第52回日本推理作家協会賞受賞。
この肩書きに引かれて読んで見たものの、途中から物語の展開に
だんだん魅力がなくなってきてしまった。
ストーリーが飛躍しすぎている感じ。無理に膨らませすぎ。
また、肝心の女性がすぐに死んでしまうこともあるのか、
主人公と女性の物語が薄い。あまりにも。
だらだら未練がましく捜査を続けてるだけ、という印象が強く
そんな主人公に魅力は感じられなかった。