フィラデルフィア出身の生楽器演奏によるヒップホップ・バンドの通算9作目。

結論から言うと、従来の作品と大きく変わった面は無いので、まず彼らのファンは安心して聴ける内容だと思う。しかも今作
は全体で40分強というコンパクトな内容になっており、従来よりも音楽にメリハリが効いている印象だ。彼らの音楽の特徴で
あるシリアスなライミングが70分以上続くと正直重い印象を受けていたのだが、個人的には今までの彼らの作品の中で最も
気軽に楽しめ何度もリピートし易く、今まで素通りしてしまっていた彼らの音楽の魅力にも気付かされた。

相変わらずクエストラヴの繰り出す歯切れ良いドラムキックは耳に快感だし、「ウォーク・アローン」や「レディオ・デイズ」で流
れるピアノループの哀愁感、インスト曲「ザ・フライト・オヴ・タイタス」で感じる絶妙な浮遊感等、全40分の中に彼らの長い活
動で培った音楽センスが絶妙に濃縮されている印象だ。

今回特に面白かったのがゲスト・ボーカル陣。冒頭の｢ピース・オヴ・ライト｣では、ダーティ・プロジェクターズから女性陣を招
きシュールなスキャットを展開させたり、「ザ・デイ」では彼らと同郷の歌姫パティ・クラッシュの舌足らずな歌と硬質なバンド演
奏との相性が絶妙。「ライト・オン」では今話題の人ジョアンナ・ニューサムの曲を大胆にサンプリングしているが、彼らの演奏
の中で聴こえるジョアンナの声が、彼女のソロ作品の時と若干異なる硬めの印象を受けるのも興味深い。この様に本作では
積極的にブラック・ミュージックシーン圏外の先鋭陣を呼びこんでおり良いスパイスになっている。

シリアスな雰囲気の中にも、彼らの持つ最高にシックな遊び感覚が散りばめられた、間口の広いヒップホップ作品だ。