ヘッセの手紙は、礼状のようなものから、依頼文、近況報告、時局について語ったものなど様々だが、どれも本当に誠実な言葉で書かれている。ナチ党員となった親友、ルートヴィヒ・フィンクに送った手紙などは簡潔ながらも深い感動をおぼえる。またヘッセは、息子が悩みを記した手紙を送ってくれば、まるであのデミアンのように、「自分自身になる」よう優しく諭している。巻末の解説でフォルカー・ミヒェルス氏が、「行ったことを彼(ヘッセ)は書き、書いたことを彼は行った」と語っているが、まさにその通りで、息子宛ての手紙を読んでいると、まるで『デミアン』の一節のような印象を受ける。実生活と著作の一致という点で、ヘッセは本当に誠実な書き手だったことがよくわかる。
本書は、一般の読者にとっては、人生のよき相談者になってくれれるだろうし、ヘッセのことをよりよく知りたいという人にとっても興味の尽きない内容になっている。巻末にはズーアカンプ書店で全4巻のヘッセ書簡集を編集したミヒェルス氏の非常に的確なヘッセ論も収録されているので、是非一読をおすすめしたい。また本書には、続刊に『ヘッセ 魂の手紙―思春期の苦しみから老年の輝きへ』(毎日新聞社)がある。