桂冠詩人ペトラルカと、彼を師と仰ぐ『デカメロン』のボッカチオの往復書簡から、何本かを抜粋、和訳した文庫。
本書でも紹介されているように、自分の書簡集を編纂したこともあってかペトラルカ発の手紙は多く残存する一方、
ボッカチオから出したものはあまり残っていないという。そのため必然的に本書は、ペトラルカが送った物が中心。
ペトラルカのフィレンツェ居住を誘う公式の手紙、ペトラルカが結局ミラノ居住になったことへのボッカチオの辛辣な批判、
写本の筆写や贈り合い、二人のダンテ評価、ペストの災禍、ペトラルカの目指す生活、予言者の言葉に動揺するボッカチオ、等
さまざまなことが手紙で語られている。二人の高い教養、古典文学への高い評価が貫かれており、
時には謙遜して相手を持ち上げながら感動的なまでの友情を育んだことが伝わってくる。また時には、
相手を少々厳しい言葉で批評したり、忠告したり、意見をしたりする。それでも、二人は死の間際まで文通を続けた。
あのペトラルカの手紙だ、ということで書簡が読まれ盗まれるのは日常茶飯だったらしく、
「この前の、届いていないみたいですが・・・。」という便りも多い。イタリアは各地が争い、ペストも流行し、
生きていくのはもちろん、手紙のやりとりひとつとっても大変な時代であったろう。このような不安定で無常な世の中で、
自分の求める生活を得ようと努力しながら文学に熱中し、写本を自ら作成までしてしまう二人の交流が、
豊富な序論と解説、年表と共に一冊の文庫にまとめられている。