１４世紀に活躍したイタリアの桂冠詩人ペトラルカの書簡から、２３篇を選んだ選集である。
存命中に名声を望むことをいましめた書簡で幕を開ける本書は、さまざまなタイプの手紙を盛り込んでおり興味深い。
名声は後世につくられるものと言いながら自らも、桂冠詩人の称号に気をよくしたり、貴族を攻撃したり讃えたり、
政情不安定なイタリアにて、教皇のバビロン捕囚やペスト大流行といった大変な時代に生きたペトラルカならではの、
矛盾を含みつつも祖国愛と古典古代復興への熱意に常に裏打ちされた書簡がみられる。
韻文、散文双方からなる書簡においては他に、山登りとそれに伴う内省の経験、アウグスティヌスの『告白』に感銘を受けたこと、
古の都ローマへの憧憬と賞賛、キケロ・自己・後世の人に宛てた形式のもの、革命への激励、文体論、
ペスト大流行の経験に裏打ちされた、時に関しての無常論溢れる韻文から生き方、自伝まで多岐にわたる。
ペトラルカは古代ローマに心酔し、かつてローマが屈服させた民族に今やイタリアが支配され、
しかも小国が乱立し不和であることを嘆き、和解と統一、ローマ復興を訴え続け、自らも古典の書籍を蒐集する。
こうしたペトラルカの活動が、ルネサンス、ヒューマニズムの嚆矢となっていったことがよく伝わってくる。
訳文は文章、活字共に読みやすく、解説も詳しい。ペトラルカの活躍と人生が鮮やかに描出された文庫。