民族、宗教、言語とは何か?
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本書はフランス在住でトルコの少数民族が話している言語を研究している日本人の手記ですが、一貫して本人の体験談をもとに記述されているため非常に生々しい本です。題名にもあるように、イスタンブールやトロイ、カッパドキアなどとは違う、一般の人の目にはまず入ることのないトルコの側面を紹介しています。日本には方言こそあるものの基本的に日本語を皆が話していますし、方言は個性的なものとしてむしろ近年は良いものという風潮が大きくなっている気がします。一方本書が描かれた1980年代のトルコでは言語、方言というものが政治に密接に関係し、自身の話す言語次第では逮捕されることがある、という事実は衝撃的でした。民族、言語、宗教という言葉はもちろん知っていますし、意味もわかっている気がしていたのですが、本書を読んで改めて「民族」とは何か「言語」とは何か、「宗教」とは何か、がつくづくわかっていない自分に気がつきました。現在のトルコではどうなっているのかわかりませんが、本書トルコ理解を促進するためには必須の本と思います。
新書なのに目頭が熱くなる
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とにかくすごすぎる。星6つであります。新書を読んで涙が出そうになったのは初めてであります。ある国や地域の概説書というものは、たいてい公認の歴史の要約に多少のスパイスがかかったくらいの内容で、参考になります程度の感想しか持ちえないし、また紀行文というのは、短期間の表面的経験を主観的に述べたに過ぎないことが多く、なるほどそれは面白い経験でしたね、としか言いようがありません。この本はそんなものとは一線も二線も画します。この本には、16年間にわたる確かな研究と経験の積み重ねに裏付けられた事実がすみからすみまで詰まっています。しかもその経験は文献の探索ではなく、抑圧された言語を話す名もない人々との直接の対話から掬い上げられた歴史の真実であり、人間の真実です。すでにこんな地味な新書にこれだけのレビューが書かれていること自体、いやこの本を読めばレビューを書かずにいられなくなるという真に稀有な本です。
現在にも通じるトルコの素地
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この本は今から十数年も前に書かれたものではあるが、今のトルコの諸問題が既に内在していたことが確認できるものである。駐トルコ大使が書いた書物‥「トルコが見えてくる」(山口洋一)、「トルコ歴史のはざまで」(遠山敦子)のような外国人向けの表の顔でなく、トルコ国内に居住する少数民族に対する差別を含めた実態(言語や宗教等)と内在する問題が浮かんでくる。ケマル・パシャ(アタチュルク)が唱えた政教分離政策(世俗主義)も最近の憲法改正(女学生の学校でのショールの着用許可等)等でイスラム教化が推し進められており、その素地が末端(地方、庶民段階)では既に形成されていたことがわかる。最近のPKKの動きもそのような抑圧政策の影響か‥? 世界一の親日国家トルコのもう一つの顔が見えてくる。内容は紀行文的でスリルや庶民人情も散りばめられ一気に読めた。
とても面白い本である。
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トルコに、特に建造物にその痕跡を残す歴史に興味がある人には、すこし方向性が違うかもしれないので、楽しめないかも知れない。しかし、トルコ国内で喋られる言語に残された痕跡から、トルコという国が持つ歴史的、地政学的背景を考察するには、そして近代の(とはいっても現代とはもはや呼べないが‥)複雑な国内事情を推察するには、本書な非常に参考になり、また面白い内容の本である。私も本章は数回読んだ。
ザザ語
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三省堂・言語学大辞典第5巻【補遺・言語名索引編】の「ザザ語」の項の著者です。
本著にはザザ語の民謡(楽譜付き)も載せられており、それに関するかっちょいい逸話も楽しめます。フィールドワークへの夢をかき立ててくれる一冊では無いでしょうか。