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海に帰る日 (新潮クレスト・ブックス)

価格: ¥1,995
カテゴリ: 単行本
ブランド: 新潮社
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人生を再び生きる為に、悲しみと甘美さが同居する記憶をたどり直す旅。 ★★★★☆
2005年度ブッカー賞受賞作で、アイルランドの類稀なる文章家と激賞される巨匠バンヴィルの繊細且つ静謐な心象風景を綴った慟哭の物語です。妻の癌による死の影を引き摺る老美術史家モーデンは、少年時代の記憶を呼び覚ます為に小さな海辺の町を訪れる。〈シーダーの家〉と呼ばれたかつてのサマーハウスに再び腰を落ち着け、遥か昔に出逢ったグレース一家の思い出に身を委ねる。ミスター・グレースと官能的なグレース夫人、少女クロエと聾唖の少年マイルスの双子の姉弟、子ども達の世話係ローズ。初め女神の降臨の如き夫人の魅力に惹かれるが、気まぐれで何時しか思いは幻滅に変わり、やがて少年の愛は少女クロエへと移る。海辺で過ごすひと夏の幸せな日々の記憶に、数年後にロンドンで出逢った妻と過ごした記憶が割り込んでくる。不意に癌を告知されてからの悟り切った妻と悲しみに沈んで静かに暮らす毎日。モーデンは記憶を掘り起こしながら、人生の意味を幾度も自分自身に問い掛ける。答など出ないと解ってはいても問い掛けずにはいられない。そして記憶は我儘で意地悪な所のあったクロエと弟マイルスに突然降りかかった悲劇の場面へと辿り着く。ある夜酒場で何もかもがどうでも良くなって泥酔し暴れまわり醜態をさらしてしまう。人は抗い難い運命に翻弄されて自分を見失い自暴自棄に陥る事がある。私には彼を非難する気にはなれませんし、人としての弱味を見せる彼の心情は痛い程理解出来ます。彼にとっては心中でもう一度悲しみと甘美さが同居する出来事を洗い浚い再構成する必要があったのだと思います。周囲に対して心を閉ざす男に、娘のクレアや滞在客の大佐や管理人で嘗ての世話係ローズのミスVはそっと助けの手を差し伸べます。願わくば物語の続きで彼が悪態を吐きながらも周囲の人々の暖かい気遣いに触れて感謝し新たに生きる道を見出して行く事を祈ります。
現在と過去によって織りあわされた記憶 ★★★★☆
語り手であるマックス・モーデンの現在と記憶を、静謐で抑制の効いた文章と、緻密な構成力で互いに織り合わせられた作品です。その中心として存在するものは、幼いマックスが住んでいた海辺の町にある「シーダーの家」です。最も遠い記憶に刻まれている人々は、彼が幼い頃に其処に滞在していたグレース一家、特に美しい母親、娘そして聾唖者の双子の弟。昨今の記憶に刻まれている人々は、病に侵された妻、娘、そしてマックス自身。そして現在、彼は現在から逃避するかのように、「シーダーの家」で記憶に慰安を見出そうとします。──「わたしのボトルはどこにある。わたしには大きな赤ん坊の哺乳瓶が必要なのだ。わたしをなだめてくれるものが」。
しかし、現在の「シーダーの家」においても、彼は慰安を見出すことができません。彼の行為を懐古的で後ろ向きだと非難することは容易いですが、そのようなことはジョン・バンヴィル自身が充分承知していることであり、全ての人間が避け得ない営為ではないでしょうか。現在と過去の間の絶えざる往来、記憶の変容、こういった営為から逃れられる人は一人としていないでしょう。バンヴィルは、作家としての彼の技術を駆使し、現在、過去そして記憶を明瞭に提示することをせず、ある男の生を一枚の画として織ってゆきます。
この作品が文学の歴史に長く残ることはないでしょうし、作家自身もそれを望んではいないでしょう。しかし、アリステア・マクラウドの作品群がそうであるように、ある時代の心象の数々のうちの一つが現れている優れた小品と呼んで良いのではないでしょうか。
読む人を選ぶ一冊 ★★☆☆☆

この本の評価は読む人により、上下に大きく別れると思う。ブッカー賞を受賞したぐらいの作品なのでこの世界に共感できる人にとっては素晴らしい作品と感じられるであろう。一方で、自分もその一人であるが、主人公を始めとする登場人物に共感できない人にとっては、良さが理解できないのではと思う。

物語は最近妻を亡くした初老の主人公が、少年時代すごした海辺の町へ戻って来たところから始まり、少年時代の思い出、妻との出会いと別れ、そして現在の状況が交互に描かれる。少年時代のグレース一家との交流(特に双子)がメインストーリーと思うが、自分には出会いのシーンから最後の唐突な別れまで、何故このような展開になるのか理解できなかった。