インターネットデパート - 取扱い商品数1000万点以上の通販サイト。送料無料商品も多数あります。

大尉の娘 (岩波文庫)

価格: ¥819
カテゴリ: 文庫
ブランド: 岩波書店
Amazon.co.jpで確認
大勢の人々が群がる ★★★★☆
「わたしをのぞく、ほかのすべての人々にとって、恐ろしい人間であり、冷血漢であり、悪党であるこの人間とわかれるにのぞんで、わたしのいだいた気持ちをここにのべることはできない。だが真実を語らずにいられようか?その瞬間、はげしい同情の念がわたしを彼にひきつけたのだ。わたしは、彼のひきいている悪党仲間から彼を引き離し、手遅れにならぬうちに、彼の首を救ってやりたいという、もえるような願望に駆られた。しかしまわりには、シヴァーブリンをはじめ大勢の人々が群がっていたので、わたしは自分の胸をみたしたすべてのことを口にすることができなかった。」
いつの世にも勝ち馬に乗ろうとして人はむらがろうとする。保身のためだが、馬のほうも真実が見えなくなり、奈落におちてしまう。
史実に取材した通常小説 ★★★★★
 面白かった。予備知識なしに読んだのだが、後で実際にあった反乱事件に取材した作品であることを知った(正確には一度読んだのだがそのことを忘れていた)。この手の小説はおおいのだが、史実を踏まえて書かれていることに気付かなかった理由は、主人公も含めた登場人物のキャラクター設定が極めて明快で小説的である(歴史書的ではない)ことに負っていると思われる。つまり歴史小説としてではなく通常の小説(というよりは、gb250さんも書かれているように、物語というべきか)として構成されている、ということに尽きるようだ。
 つまり「歴史小説である」ことはほとんど意識しない、それがこの小説の面白さだと思われる。
物語の力 ★★★★★
おもしろかった。プガチョフの乱という歴史を背景に、個人のドラマに焦点を当てるという、現在では常套的な手法が、見事に奏功している。本書の解説では、家庭小説という言葉でもって後者(個人のドラマ)を高く評価しているが、そのような比較はあまり意味をなさない気がする。歴史の中で描くから「家庭」も生きているのであって、どちらがよくできている、という性質のものではないだろう。

それにしても文章がいい。これは訳者がよいのはもちろんとして、ユーモアをたたえたこの筆致はプーシキンのもの。ロシア近代文学はプーシキンからはじまると言われているそうだが、それも肯ける。

シヴァーブリンなど、典型的なフラットキャラクター(平面人物、一貫して性格が変わらない人物で、性格の変転するラウンドキャラクターに比べて劣るとされる)だし、物語性が濃厚な作品なのだが、こうしてみると「小説」の限界を打ち破るのは、やはり「物語」しかないという気持ちにさせる。それは谷崎潤一郎なども、はやくから主張していたことだ。

それはさておき、プガチョフの人物造形が絶妙だ。プーシキンが皇帝に気を使いながら書かなければならなかった結果かもしれないが、その評価を善悪で単純に断じられない、人間性を描き出している。(漢の)劉邦にせよ、(「水滸伝」の)宋江にせよ、反乱の首謀者とはこういう人間なのだ、と実感させる。まったくもって奇妙・奇妙。