幼い頃から人形のようだと言われ続けてきた白い肌の譲、ロシア人の血をひく灰色の瞳をした亜久利をはじめ、亜久利の仕事上のパートナーである弁護士の由利、残虐性を秘めた「エイ」など、美しく謎めいた男たちが次々と登場し、物語を彩っていく。蓮川愛による、端正で刺激的なイラストが読者の想像をかきたてる。
「ハードボイルド・ボーイズラブ」というだけあって、ホテルの一室で犯人に追い詰められる緊迫した場面など骨太な描写も重要なスパイスになっている。だが読みどころはなんといっても、亜久利と譲が抑えきれない感情を爆発させるように体を重ねるシーン。直接的ではない表現ほどエロティックに感じられ、また甘い場面に著者の恋愛哲学ともいえる論理的で硬質な文章が挿入されるギャップも効果的だ。
本書ではさらりと描かれているだけで謎の多い、由利の過去の恋愛を中心に描いた『ボーダー・ライン』もあわせて読みたい。(門倉紫麻)