底本に宗鑑筆の善本を使用して、簡明な注釈書
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『新古今和歌集』の注釈・鑑賞書は、主なものでも30種ある。
本書の本文は、山崎宗鑑筆の筑波大学所蔵本を底本としているところが、他本との違いである。この底本は、誤写の極めて少ない善本であると言われている。
宗鑑は俳諧の始祖、『犬筑波集』の編者とされ、宗鑑流の能筆家でもある。原本を一般には閲覧できないが、流布されている断簡もので、垣間見ることもできよう。
本書の特長は、頭注・脚注が簡潔明快で、一般の人に親切な体裁になっている。頭注は、解釈・鑑賞に必要な事柄を欠かさないように示されている。脚注は、口語訳の後に、簡潔な鑑賞・批評が添えられている。例えば899番の人麿の歌「あまざかる鄙の長路を漕ぎ来れば」の歌に「原歌が変形し、平板化してはいるが、なお、感動が雄勁に脈打っている」と評している。