カフェ・デル・マー・シリーズの5作目(アメリカでは最近になって初めてリリースされた)からにじみ出ているのは、暖かでぼんやりとしているが刺激的なトリップ・ホップで味付けしたサウンドであり、ありきたりのエレクトロニカはまったく聴こえてこない。これまでのシリーズと同じく、本作でもアルバムの中盤に、リスナーに聴かれるのを待つ珠玉のトラックがある。それがレ・ネグレス・ヴェルトの素敵な「Face a la Mer」で、曲全体に達人マッシヴ・アタック(とニック・ウォーレン)による見事なダブが持ちこまれている。KLFのような壮大な夢をおりなすLambの「Transfatty Acid (Kruder & Dorfmeister remix edit)」は唯一「Face a la Mer」と肩を並べる出来だ。
ほかにも、レヴィテイションの「More Than Ever People」は、オレンジに輝く夕陽がきらめく波に沈むなか、暖かなバックビートが官能性を添えている。また、フランスのユニット、アム・ストロンのレトロ・ディスコ曲「Tout Est Bleu」はダンスフロア・トラックの角のとがった音とは逆のまるい曲線のような音を響かせている。こうしてみると本作を楽しむには、個々よりも全体の方が強いという決まり文句にしたがい、明かりを暗くし、ロマンチックな相手を見つけ、ただ音楽に語らせるのが一番だ。(Steffan Chirazi, Amazon.com)