録音の悪さも魅力のひとつ
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病気療養と契約のゴタゴタで一年間の活動自粛を余儀なくされていた時期を経て、
1983年に発表した復帰作です。
いかにもN.Y.のメンツらしい鋭くて重いリズムに、スカッと伸びきらないザラついた
トーンが立ちこめたアルバムです。例えば本作を代表すると思しき「Rosebud」
(「薔薇の蕾」の意味ですが、録音スタジオの名前でもあります。さらに俗語で
別の意味もありますね)。軽く聴き流すこともできますが、聴くほどにやるせなさが
つのるような毒気と艶めかしさがあり、妖しく光っています。
さらにそれを極めたと個人的に思っているのが「Morning Calm」。二日酔いによる
頭痛の如くぐるぐる回るティーのRhodes、ブラシとスティックを巧みに使い分ける
ガッドと、珍しく抑えに抑えたマーカスによるリズムに、渋いアルトが乗る極上の
一曲です。
リズムを重視したせいかストイックな空気さえ漂い、派手さも甘さも徹底して控えめ。
表現するうまい言葉がなかなか見つかりませんが、熱さの中に垣間見える独特の
ヒンヤリした感触…カラカラのアスファルトに雨が染み込んでいくような、いい意味で
苦い雰囲気がクセになります。
個人的に、夏よりむしろ秋から冬にかけての薄ら寒い夜に聴きたいアルバムです。
やっと再発です♪♪
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「オレンジ・エクスプレス」から2年振りに発表された、'83年のエレクトラ移籍第1作。R.マクドナルド・プロデュースによるN.Y.レコーディング。 マーカス&ガッドによる、ずしりと重心の低いリズムに、R.ティーが奏でる、ゆらゆら揺れるローズが独特の音場。そこに、これまでになくリズムを絞り込んだ、というナベサダ・サウンドが乗る、「ラジオ&レコーズ誌、ウェスト・コースト・ジャズ・チャートNo.1」にも輝いたヒット作。 G.テイトの渋い歌声をフィーチャーした、初のヴォーカル・ナンバー#3、レコーディング・スタジオの名を冠した、シングル・カット曲#2、マーカスのスラップから始まる、グルーヴ・ナンバー#7等、全体的に派手さを抑えたカラーで統一されながらも、一曲毎のメリハリがあり、艶やかな音色、N.Y.カラー溢れる雰囲気で聴き応えのあるアルバムです。 次作「ランデブー」も、ほぼ同じプロダクションによる、いわば「兄弟アルバム」という赴きの作品ですが、個人的には、本作の方が断絶イイ出来だと思います。 また、マーカスのプレイが、グッと前に押し出されて録音されており、彼のファンも必聴。 「すべてが熱く新しい。」発売当時のキャッチ・コピーそのままの、名盤です。
名作、甦る
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なぜ、今までコレが廃盤だったのか解せぬ。責任者出て来い、成敗してくれるところだが、こうして心を入れ替えてリマスターして出してくれるのだから今回の事は不問に付そう。以後気をつけなさい。
一聴すれば、すべて分かる。ダークでシャープでぼやけてて、しかし熱い奇蹟の作品である。ティー、ゲイル、ガッド、そしてマーカス・ミラーという今だとまず絶対召集不可能な恐怖のアンサンブルによる、大人の世界。コンプをかけまくったようなヘヴィな音質、重厚な編曲、ほとんど同じメンバーで同時期に制作されたグローヴァー・ワシントンの『ワインライト』とはまるで違う。明らかに、こっちの方がワイルドで恰好いい。心なしかティーのローズピアノもこっちの方がフルボディのワインのようだ。
しかし、何と言ってもナベサダのプレイと曲だ。発刺としたソプラノが生生しい音質で切り込む。曲も良い。「ROSEBUD」なんて他に誰がこんな曲が書けるだろうか。ティーの「DREAMS COME TRUE」も最高。しかもここにホルヘ・ダルトの片手のピアノソロ。思わず午前様で閉店間際の場末のスナックで空に近いボトルを開ける時の光景が思い浮かぶ。うん、このアルバムには本当に酒がよく似合う!今回リマスターによりシャープに、音が重く太くなった。マーカスの重金属のようなベースとティーの泡のようなローズに囲まれながら、ナベサダの声のようなアルトを聴く悦びに浸る。こんなレコードは他にありません。
ナベサダ・サウンドの完成期
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50年代から活動を開始し、秋好敏子の後を追って、渡米。バークリー音楽院で本格的な本場ジャズのエッセンスを学んだナベサダこと渡辺貞夫こそ、わが国ジャズのレベルを一気に引き上げた功労者だ。その御大が80年代に入って収録した完成期のアルバム。全体からかもし出す格調とゆとりは、バップ、モダン・ジャズ、ボサノバ、フュージョンといった枠を超越したやさしさに満ちたサウンドだ。Say When、Rosebudと続きFill up the Night With Musicではグラディ・テイトの甘いボーカルも聞ける。Dreams Come True、Soon Come、Morning Calmなどメロウな味わいからも単なる甘さだけでなく一本筋の通った彼の音楽性を感じ取ることができる。それはジャズ魂とでもいえそうな気高い精神性であり、かつて出発点としたチャーリー・パーカーやソニー・ロリンズといった巨人たちの姿とダブらせることができるかもしれない。そしてあくまでも明るく、美しく、軽快なナベサダの美学が彼のどうしようもない個性となって表出されているのだ。