若人の人生讃歌
★★★★☆
「自己なるものをおれは歌う」「おれにはアメリカの歌声が聴こえる」「おれ自身の歌」「結局、わたしは」「インドへの道」(抄)など計19編収められています。初期の作品に出てくる一人称を「おれ」としたことにより若人の人生讃歌となり、読む者に強いインパクトを与えてきます。
気になったのは「聴く」と「聞く」です。“I hear America singing”を「おれにはアメリカの歌声が聴こえる」と訳してあります。一方で“no one else hears you”を「誰も聞いてやしないから」(34頁)としています。“hear”は自然に耳に入ってくるということで「聞く」です。対して“listen to”のときに「傾聴」のように注意して聞くということで「聴く」が当てはまります。「おれにはアメリカの歌声が聞こえる」と「聴く」ではなく「聞く」のほうが良いのではないかと私は思います。
本当のアメリカ
★★★★★
このようなすばらしい翻訳をしてくださった訳者の飯野友幸氏に、感謝と敬意を表したい。
アメリカ、百の自然を有し、百の民族を抱え、百の思想を育ぐくむ大地。世界を集め、世界に放つ、正と負の、美と醜の、過去と未来の溶鉱炉、それがアメリカだ。本書の帯にはこのようにある。「本当のアメリカはこの詩篇のなかに生きている!」。アメリカの始原精神を謳ったのがホイットマンだ。力強く自由で、豪放で、大らか。そして愛が深い。
飯野氏のダイナミックにリズム輝く訳に乗って、ホイットマンの心が飛び込んでくる。「いま、息をしている言葉で。」という光文社古典新訳文庫のすばらしい理念をまさに実践している。岩波文庫の酒本雅之氏の翻訳では味わえなかった、決然とした、あるいは優しい、心のままに、すぐそばから語りかけてくる言葉が溢れているのだ。
例えば、次の詩篇がどのように訳されているか、確認してほしい。
I celebrate myself, and sing myself,
And what I assume you shall assume,
抄録ではなく、是非全訳を目指して順次刊行していただきたい。そうしたことが実現すれば、日本におけるホイットマンの位置づけを大ならしめる「新しい偉業」になると思う。