ゲーテの原文もきわめてすぐれたものだというが、国松氏の翻訳も実に巧みで、途切れることなく読める。各章にはギリシャ神話の九人のミューズがそれぞれ割り当てられており、各ミューズの性格を掴んだ上で読み進めるとさらに興味深い。
登場人物はみな優れた感じの良い人々ばかりで、その中でも特にドロテーアは群を抜いて魅力的に描かれている。これに対しヘルマンは気が弱く、自立心もない。そこがゲーテの面白いところではあるが、この物語がそもそも、金持ち息子のわがままと見えてしまうのは、駄目な読み方だろうか。