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ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代〈下〉 (岩波文庫)

価格: ¥693
カテゴリ: 文庫
ブランド: 岩波書店
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文豪の愛した多彩な登場人物 ★★★★★
「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」から数えれば6分冊、「遍歴時代」から数えても3分冊目でようやく本書に到達する。せっかくなら「修業時代」から読み始めたいし読み始めれば次から次へと読み進みたくなるから相応の覚悟をした上で取り組みたい。長編である上に登場人物が数多いから梗概を述べるのは至難の業である。基本的にはヴィルヘルム・マイスターの幼少期から青年時代までの成長をたどる物語と言ってよいだろうが相当部分がヴィルヘルムを欠いた幾つもの挿話から成り立っているから混乱を避けるためには人名のメモを取りながら読むことをお勧めしたい。これらの挿話の登場人物はもちろんどこかしらで主人公へとつながっている。また文豪ゲーテの筆致は融通無碍と言ってよく、この一作品の中にリアリズム、ロマンティシズム、ユートピアニズムが渾然として存在している。
ヴィルヘルムに仮託して著者が追求しているものは自由と真実と言ってよいだろう。ゲーテが生きた時代、海の彼方には「自由の天地」アメリカが開けつつあった。この最終巻において多くの登場人物はアメリカへ渡る。ゲーテ自身はどうであろうか。本書の第1巻7章で登場人物の一人がアメリカと対比させて論じるヨーロッパはゲーテ自身のヨーロッパへの愛着と信頼を語っているように思われる。本書には一貫して古典特有の明るさと大らかさがあり、一つの時代の思想が随所に垣間見られる。そのような美質が、物語として受け取った場合の、とりわけ終りに向かうにつれて広がるかに見えるプロットの破綻を救って余りある。