歴史を絡めた映画批評はさすが
★★★★☆
本書は、1987年から2001年にかけて製作された中国および香港・台湾映画の名作40数本について、近代中国文学の専門家である著者が、中国近代史についての豊富な知識を生かしつつ書いた映画評論集だ。映画を通して中国人社会の仕組みにまで踏み込んでいく解説にはさすがだと思った。たとえば『山の郵便配達』という映画を見た際、私は山里の純朴な風景や父子愛に感動したのだが、著者に言わせれば、山奥の郵便配達という厳しい仕事を息子に引き継ぐ美談といっても、公務員であるいい職分を親子相伝する打算が見えてくるし、息子の花嫁候補に少数民族を持ってくるのは漢族版オリエンタリズムがかいまみえる。また老配達夫が若い頃を回想したシーンで、農作業や家事に追われているはずの新妻が、家の前に立って彼の帰宅を寂しげに待ち続けるなんてありえないと疑問を呈する。この映画は中国国内ではそれほど受けなかったと聞いたがなるほどその理由がよくわかった。