吉行淳之介は欺瞞を排除する。性善説に立脚した恋愛や人との関わり。そのスタンスは他者の排除からではなく、「なぜ生きることはこうも上手くゆかないのか」という深い絶望とそこからの再生をあがき求めるからだと思う。本当に「他人との関わりなどどうでもいい」、
と考えているのなら、人間関係や人間について考えなどしないだろう。
不信と信頼。愛情と憎悪。情熱と冷酷。絶望と希望。一見相反する概念や感情のように見えるが、すべて諸刃の刃。その中間のあやうい位置を吉行淳之介は静かに歩き続けた。