なんという迫力
★★★★★
『ダントンの死』、この作品の持つ途方もない魅力に圧倒された。
人の力にはとうてい及ばない運命の存在を感じ、同時に革命への情熱を失い、抜け殻のようになってしまった英雄ダントンの姿をひたすらに追求したこの作品は、もはや単なる革命劇を超えて普遍性を獲得している。そこにあるのは一種、ギリシア劇の主人公にも近い男の姿である。
かつての盟友ロベスピエールとの相克、デムーランやラクロワなどの魅力的な同志たちの怒りと嘆き、女たちの烈しい生き方。これらのすべてがひとつの劇の中に納まり、宇宙的な広がりを見せる。
この作品をビューヒナーは21歳の時に、それも五週間で書き上げたという。これが天才というものか。彼が長く生きていたら、いくつもの素晴らしい作品を残したことだろうに。併収の『ヴォイツェク』『レンツ』も読みやすいとは言えないが、非常に強靭な作品であることは疑いない。
解説の岩淵氏は高齡のはずであるが非常に綿密な解説を残しており、これほど読むのに有益な文もないかと思う。そして「ダントンの死はおそらく今後も日本では上演されないだろう」という指摘はおそらく真実を突いている。この劇の本質を評価する土壌が日本にはないように感じる。それを思うといくらか寂しくもある。
ともあれ、これを文庫という求めやすい形で出してくれた岩波書店に感謝したい。ぜひ手にとって欲しい。