本文は140ページ余りでコンパクトにまとまっており、微積分と線形代数、更に関数論の初歩(コーシーの積分公式と留数定理)程度の予備知識があれば、最後まで読み通せると思う。
さて、本書の魅力は以下に述べるような色々な「読み方・楽しみ方」を(読者のレベルに応じて)出来る事にあると思う。先ず、eやπなどの超越性とζ(2)やζ(3)の無理性など、「著名な事実の証明をフォローする」という読み方ができる。次に、超越数論の重要な定理である、リンデマンの定理、リンデマン-ワイヤストラスの定理、ゲルフォント-シュナイダーの定理、更にシュナイダー-ラングの定理、などを(2章で)順に理解し、それらの定理が順次拡張されていく「理論の展開を楽しむ」という読み方ができる。更に、後半の3章と4章で、ロスとベイカーという二人のフィールズ賞受賞者の主要業績である「ロス-リドゥの定理」と「ベイカーの定理」の各々について、その証明を関連する素晴らしい補題と共にじっくりフォローし、「その理論構成の素晴らしさを鑑賞する」という楽しみ方ができると思う。
本書を最後まで読み通された読者は、「超越数論」が醸し出すその独特の魅力を間違いなく(再)認識されることとなろう。
PS. 本書を読まれた方に、コンツェビッチとザギエの共著の論説「周期」(「数学の最先端 21世紀への挑戦 vol.1」所収)を一読されることをお勧めしたい。現代的な周期理論の中で、本書で現れた古典的な数のトピック(例えばζ(3)やアイゼンスタイン級数など)がどの様に扱われるかを目の当たりにする事ができ、大きな感銘を受けられることと思う。