枯れた味のエッセイ〜老成の証か ?
★★★☆☆
「胡桃の中の世界」、「思考の紋章学」を読んだ後では、いささか精彩を欠く感のあるエッセイ。良く言えば老成か。西洋芸術と比較した日本芸術論、日欧の作家・作品評(交遊録)から成るが、巻末に著者の推薦作が纏められているのが特長。
地獄論は従前の蒸し返しで、出がらしの様。「とりかえばや物語」も再登場だが、性的倒錯が横溢する本作が余程のお気に入りらしい。実は私も好きなのだが。ただし、鎌倉時代の地獄絵に対する考察は見るべきものがある。三島に関しては、評論と言うより交遊録で、三島ファンには楽しめる。「埴谷雄高」論に関しては、著者に反して「死霊」は難しい、否、一人よがりの駄作だと思う。著者が師と仰ぐ「稲垣足穂」論は、評論を読むより実作を読めとの意図だが、それにしても不親切過ぎる。ビアズレー、マンディアルグ等の論評は、対象が現代的過ぎる事もあり、切れ味に欠ける。相変わらず「ポリフィルの狂恋夢」や両性具有が引用される等、批評方法に進歩が見られない。バロック風混沌と奇想を論じていた際の活気も感じられない。ユートピア文学と教養文学(ドイツ発祥)を対比させ、「ナチズム発生」論を展開するのは著者らしい。ここから冴えが戻る。ニーチェの明晰性とイタリア旅行との関係。魔術師の系譜を復活させたフロイト。こうした発想の新規性が著者の魅力だと思う。コクトー論、シュルレアリスム論では自らを語っているようである。「死体解剖よりは生体解剖を好む」と言う心意気や良し。ここからは個々の作品についての論評だが、短い紹介文の様。「O嬢の物語」については、もっと深い論考が欲しかった。巻末の著者の推薦作は、本文中で参照したものが多いものの参考になる。
枯れた味を感じるのは私だけであろうか。読んでいて昂揚感を覚えなかった。それとも、19世紀以降の作品に対して、夢と奇想を望むのは無理なのであろうか。