なかでも、花山院と安倍晴明を取り上げた「三つの髑髏」の幻想譚、
この話がとても気に入っています。鏡の中に、同じ映像が無限に続い
ているような、すーっと吸い込まれていくようなえもいえぬ妙なる味
わい。不思議に心を誘われる話です。
「金色堂異聞」の話も読みごたえがあって面白かったです。奥州平泉
に出かけた作者こと私が、そこで妙な老人と出会い、不思議な体験を
するという話。どこからがフィクションなのか、現実と虚構の境界線
が揺らぎ、ぼやけてくるような感覚。
幻術師・澁澤の手妻に魅せられているうちに、いつしか幻想の大海原
の水平線を眺め、はるか彼方の島に向かって漕ぎ出していたかのよう
な、そんな味わい。
「蜃気楼」という話もなかなか良かった。大きなハマグリがぼわっと
気を吐くと、そこに幻の楼閣や風景が空中に現れる蜃気楼。不思議な
からくりでも目にしたようで、妙に心を揺らす作品です。