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高丘親王航海記 (文春文庫)

価格: ¥500
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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澁澤龍彦が書いた澁澤龍彦入門 ★★★★★
澁澤さんが最晩年に書いた小説。この冒険譚は、精神の波瀾万丈の
面白さ。ここから入って、澁澤さんの業績に、歩を進めるのは、
若い人にとって悪くない。
循環同心円構造で描かれた夢の集大成 ★★★★☆
澁澤氏が先に執筆したエッセイ中の思索を、薬子の乱を主因として天竺を目指す事になった高丘親王一行の幻想的航海記に託して描いた集大成的物語。最低限の史実を除き、リアリズムは排し、奇想と非論理(無意味)から生じる笑いを主題としているようである。

一番感じるのは、「私のプリニウス」、「胡桃の中の世界」の影響である。薬子の"卵"生願望、高丘親王の重層"円"的思考法、人語を操る動物を初めとする珍奇な動植物、アンチボデスの概念(プリニウスは裏側の人間は何故落ちないのか疑問を呈している)、球・円形オブジェへの拘り、種々の蛮族、「鳥=女神」論、全てエッセイ中で語られている。また、一行中の円覚を「日本人離れしたエンサイクロペディックな学識」を持つと評しているが、これは作者の自評だろう。大蟻食いのエピソードが示す、真と偽に代表される弁証法的二元論も澁澤ファンには御馴染み。この物語の時制を整理すると次のようだろう。

(1) 薬子、空海が登場する、高丘親王の幼年・青年時代(過去)
(2) 旅行中の現在
(3) (2)の中で見る夢の世界
(4) マルコ・ポーロ等の名が出る未来

(3)の中に(1)が現われ、(1)で(2)を予見し、(2)で(4)を予言すると言う、まさに玉葱の皮状態の循環同心円構造。秋丸・春丸、ジュゴンの転生にも輪廻思想が現われている。鏡の写像で生死を気にする姿は、"洞窟の影"の暗喩か。本作全体が高丘親王の"影(夢)"のようである。結末もファンタジックで集大成(遺作)に相応しい内容と言えよう。
澁澤先生最高傑作小説 ★★★★★
澁澤先生、今生きてらしたらパイプどころかタバコも吸えない嫌な世の中でさぞ御憤慨だったでしょう。この最後で最高の小説、もちろん単行本出た時すぐ買わせて頂きましたが別れた女が返してくれず文庫買い久々に再読させて頂きました。泣けます。評論も何冊か再読致しましたが若い時先生の本読みまくったおかげか先生と基本的に同じ価値観の自分を誇りに思います。政府は金ばらまくならこの小説を全国民に送るべきです。そうすれば禁煙ファッショなどが、いかに愚かか自ずと分るのに…。それではまた。
天の蒼穹へと融け入るような七つの夢幻譚 ★★★★★
 夢と現実のあわいを行き来しているうちに、一体どちらが夢でどちらが現実なのか分からなくなってくる、そうした味わいにするすると引き込まれてゆく連作短篇集。そこには、モーツァルトの20番以降の「ピアノ協奏曲」を彷彿させる調べがあり、自由の境地に遊ぶ清澄な美しさに魅了されました。
 六十七歳というのに童子のように天真爛漫な御子(みこ)こと高丘親王が、数人の従者とともに天竺へと向かう道中の、不可思議な話を記したファンタジー。「そうれ、天竺まで飛んでゆけ。」の言葉をモチーフにして、夢のエッセンスのような幻想譚が展開されていくのですね。久しぶりに再読したのですが、これはやっぱり素敵な幻想綺譚だなあと酔わされましたね。
 さらに、妖しい感じが、ドラコニア王国の主・澁澤龍彦の面目躍如たるもの。江戸時代の絵師・伊藤若冲(じゃくちゅう)の、鳳凰を描いた「老松白鳳図」という絵に漂うエキゾチックな妖艶美と気脈通じる味わいに、うっとりとさせられました。
 澁澤龍彦の小説では、『唐草物語』『ねむり姫』『うつろ舟』もそれぞれに珠玉の短篇集だけれど、ただ一冊だけとなれば、この遺作を選びます。はるか天の蒼穹へと融け入るが如き、七つの夢幻譚の香り高き調べ。絶品、と言うしかありません。
もっとお元気な頃に執筆して頂きたかった... ★★★★☆
 云わずと知れたザ・「渋沢達彦の遺作」です。
 病床にありながら、このような起承転結のしっかりした幻想的な連作ものをお書きになれたのは凄いとは思うものの、文中、余命幾許もないご自身と高岡親王の姿を重ね合わせているような、それでいて突き放した理性的な観察者としての目がいつもあるような気がして、ある意味やり切れない気もします。
 不思議な文物や、歴史の中の一コマが、東方見聞録だか西遊記を思わせる昔の神話的で荒唐無稽な東南アジアを行く親王方の目に触れると言えば、多分にロマンティックな響きもありますが、今まで渋沢氏が数々のエッセイの中で俎上に取り上げてきたネタの一部のみを切り取り、旅行記に仕立て上げたともいえると思います。腐っても渋沢なので、かなり使い古した題材を使っていても、とても面白い読み物にはなっていると思うのです。
 それでも...幻想的で多分に散文的過ぎる余り、ストーリー全体よりも一シーンの色彩のみが強烈に脳裏に焼けついてしまう、お若い頃の小説が好きだった身としては、幻想や表現の暴走が無い極力無駄を省いた文体で構築された堅牢な楼閣といった風情のこの著作に対して、無条件でサイコーと云えないのです。悲しいことに。特に、それが主人公の死に集約する為に使われ、そして氏の遺作となってしまった事を考えると、複雑な思いで一杯なのでした。
 願わくば、もっとお若い頃に、幻想やエロティシズムの暴走をコントロールしきれない頃に、この連作を書いて頂きたかったと、ヒネたファンは思うのでした。さぞや荒唐無稽で、エロで、グロで、耽美だったでしょうに。