様々なものが対として描かれている本書の中で、私は「夢(将来、未来に対する希望という意味での)」と「夢(寝ている時に見るもの)」が対比されているように思えました。一方は現実、一方は仮想の世界。英語でも日本語でもこの夢という単語は表と裏、両方を持ち合わせています。夢を実現させるために努力する事は素晴らしい事ですが、夢の世界に入り浸っているようではいけないし、現実を見据えなければいけないのではないでしょうか。
自分の本当の姿、現実的な夢と非現実的な夢と区別出来なくなってしまう事は恐ろしい事です。ゲドが「何かをする方がずっと楽」「向こうの声でもあったがそなたの声でもあった」と言った事や、その他本書全体は、自分の中で考える事の重要さ・困難さ、誘惑の持つ力など、本当に多くの教訓を含んでいるように思えて仕方がありません。おもわず感動して、頷いてしまいたくなる場面ばかりでした。
本当にこのゲドシリーズは素晴らしい。一冊でも、三冊を通してでも非常に意味深い作品となっています。子どもの頃に読んでおきたかった作品の一つです。一体、作者のル・グィンはどのような人なのでしょうか。
話の滑り出しは、こんな感じ。
アースシーの世界のあちこちで、魔法の力が弱まっていることが分かります。
その原因は何なのか? 一体何が起きているのか?
この危機的な状況を打開する使命を担ったのが、大賢人のゲドと、
エンラッドの王の息子アレン。ふたりが、アースシーの魔法衰亡の原因を
突き止め、災いを取り除くために、南海域に向けての航海に出発します。
航海のさなか、いくつもの危険と遭遇するうちに、ゲドに対するアレンの
気持ちが揺さぶられます。信頼と不信、共感と反発のはざまで、アレンの心の
中の羅針盤の針がくるくると回転します。そして、アレンは成長していく。
困難の中で精神的に強く、たくましくなっていくアレンの変化する姿に、
本書の一番の読みごたえを感じました。
ラストシーンがいいんだなあ。
ふたりの苦難の旅路の果てに待っていたものは何だったか?
読み終えて、清々しい解放感を味わうことができました。
ひとつ残念だったのは、ゲドがだいぶ年をとっていたことでしょうか。
もっと若い頃のゲドの活躍を見てみたかったと、そんな気持ちもしたことです。