「恋文」という文字の美しさ
★★★★★
向田邦子は、田辺聖子よりもちょっと、一回転ひねくれている、気を遣いすぎて素直になれない
印象がありました。
それが、この本では、なんと、なんと愛らしいのでしょう。
「芯があり、強く、自分以外にも愛情を注げる優しい女性は、同時に「世界で一番愛らしい」存在です。
バイバイ
★★★★☆
本の巻頭には、向田邦子直筆の手紙の写真があり、妹の和子氏が姉の交際相手だったN氏の手紙と日記を見つけた時と、読んだ経緯が記されている。
当初は、人の秘密をのぞきこむようで、こういった個人の手紙や日記を読んでしまうことへの罪悪感を少し感じた。
向田邦子からN氏へあてた手紙は、仕事の事、食事に関する事、愛猫の事、N氏の体をいたわる言葉にあふれながらも、N氏への甘えの箇所もあり、とても可愛らしい。
N氏の日記は、一日の行動や購入した物品とその金額と、自宅へ来た向田の様子、手紙には、愛情がひしひしと感じられる温かな言葉が綴られている。
いわゆる「不倫関係」ではあったけれど、彼女達の手紙や日記には、少しもその嫌らしさを感じない、お互いに尊敬の念で結ばれていた、という印象が強く残った。
改めて、手紙や日記っていいなあと思えた。
本に掲載されている、向田邦子が若き日の恋愛中に撮影された、ポートレイトの美しさに感嘆する。
第2部では、飛行機事故で亡くなった向田邦子の遺品整理に始まり、妹から見た姉とN氏との関係と父にまつわる逸話。父が亡くなった時の向田邦子の様子が、N氏の亡くなる際と重なるのではと推察した描写は、非常に切なく心に残る。
この本を読んで、向田邦子という人がますます好きになった。
1通の手紙の最後の「バイバイ」に、恋する女の可愛さがにじみでている。
巻末に太田光の文が載っているが、これがまた名文で驚いた。
切ない読後感です。
★★★★☆
この小説のドラマ化(山口智子主演)を見ていたのですが、それも7年程前のことなので、改めて文書でお目にかかり一人感慨に浸っていました。
向田さんも、N氏も亡き人。どうかあの世で二人が無事会えていますように、と願うばかりです。
そしてN氏の妻子が今、お幸せでありますように。
心にしみる
★★★★★
そう、私は向田邦子の大ファンなのである。彼女の作品のドラマは全部観てきている。そして、あの何とも言えない味が大好きである。彼女が飛行機事故で亡くなった時のこともよく覚えている。
ある女優がこの本の事を書いていたので、すぐに買った。温かさの中に残るせつなさと書いている。彼女の秘められた恋のことが書かれている。「誰かさんみたいに、こなくても平気だよ、なんて、ひどいことはいわないもん」彼の方は、「邦子はコタツで横になって満足そう。ふっと可哀想にもなったりする」
彼女の恋は悲しい結末を迎えるのだが。いやー、こんなかわいい女いないなあ、と思うのだ。この本には彼女の生前の写真が何枚か出ている。なるほど、辛い恋や家庭環境からあのようなエッセイや書が書かれたのだな、とすごく納得する。これを読んで、さらに向田邦子ファンになってしまった。ちなみにこの女優は、胸が苦しくなると結んでいる。よく、わかる。あまり繊細でないひとは読んでもわからないかも知れない。彼女のファンには必読書だろう。
長女であり、長子である邦子さんの底力
★★★★★
邦子さんより9歳年下の和子さんによる、放送作家であった姉・邦子さんと、記録映画のキャメラマンであったNさんとの秘められた想いが綴られています。そして、後半では、和子さんの随筆という構成です。
前半の邦子さんの、Nさんへの手紙やNさんの日記から垣間見える、恐ろしい程の多忙振り。Nさんの日記の中に「少し可哀想」という表現が、出てきます。かの邦子さんではありましたが、欲は何一つ口にしない姉であったという、妹・和子さんの後半の文面から、「時間だけは、最低でも、倍は欲しかったんじゃないだろうか」と思え、本当に百人力とは、こういう人の生き様を言うのだな、そうつくづく感じさせられます。
その、劇的に忙しい邦子さんが、3日とおかず、Nさんのもとを訪なう下り。Nさんには、妻子があり、決して、許されない恋であったことが、次第に分かり、文面を涙で滲ませます。それを、また、同時に、決して曲げない一本気な心意気で、恋を通した邦子さん。心が、ひりひりと痛みます。
最期の2人の別れは、誠に切ない。どこにでもある、平易な文体でありながら、どこまでも互いを気遣うその優しさが、私たち読者の、胸を締め付けるのです。