聖地「熊野」に、一歩近づく。
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山岳自然宗教の原型が、色濃く残っている聖なる場「熊野」の初心者用解説書です。一目で判るようにデフォルメし、彩色した俯瞰図(曼荼羅)を使って、熊野の3つの聖地を、それぞれ説明しています。地形や社の全体内での位置が良く見えます。また絵には歴史的な事績や人が、時代を超えて描かれています。それを指しながら、話が語られていて、昔、熊野系の比丘尼や修験山伏が全国を周り、曼荼羅の絵解きをしながら、熊野を説いた場に居合わせているようです。
○「熊野」には、3つの社(新宮、那智大社、本宮)があります。新宮と本宮には、後背山に磐座があり、本宮の社は、川が合流する中洲にあった森の中にありました。那智大社には、大滝と補陀落渡海が実践された那智湾があります。年々の豊作への祈りに根ざした伊勢神宮の信仰とは違い、熊野の各社は、非日常的な自然への畏敬と直に結びついていたようです。○しかもその聖なる場は、自然現象だけではありません。記紀神話から近世の説話に至る霊験譚、神仏融合の権現、法王の並外れた参詣記録、人々の熱狂的な熊野詣など、日本の信仰史と結びついて物語られてきた歴史世界があります。○更に個人の信仰ではなく、神と地域集団との関わりでは、祭りが主役です。3山だけでなく、周りの神社の祭りなども、熊野独特のものです。○また熊野神社は、日本各地に勧請されており、3000社を越えるそうです。
この巨大な「熊野」を、解説する寄稿者は、歴史学者、3神社の宮司や、ガイドブック風な編集部の部分など、多彩です。しかし不統一の感じはありません。大きい聖地を、様々な面から見て、色々なキーワードや切り口でやさしく紹介しようとしている編集意図が分かります。その古さによるのか、自然の深さによるのか、大きさによるのか、信仰の実像がなかなか結べない「熊野」を、全体として、大きな方向性の中で、掴むには良い本です。