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新訳 ロミオとジュリエット (角川文庫)

価格: ¥460
カテゴリ: 文庫
ブランド: 角川書店
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言葉遊びの細部を極める ★★★★★
『ロミオとジュリエット』は、ジュリエットという「蕾が一気に開花して散ってゆく」(ヘーゲル)、その一瞬に圧縮された時間の力に圧倒される。ジュリエットの美しい科白、例えば「And palm to palm is holy palmers’ kiss こうして掌(たなごころ)を合わせ、心を合わせるのが聖なる巡礼の口づけです」(河合訳)等も素晴らしい。だが、この作品はジュリエットの純愛を際立たせるためであろうか、全編に卑猥な会話が溢れている。どうでもいい瑣末な箇所まで卑猥なニュアンスになっている。例えば、第二幕4場、通りをやってくる乳母と召使を見つけたロミオとマキューシオの会話。

「A sail, a sail!」「Two, two: a shirt and a smock. 」「船ぢゃ船ぢゃ」「二艘二艘。男襦袢(をす)と女襦袢(めす)ぢゃ」(逍遥訳)。「船は二艘。猿股に腰巻だ」(福田訳)。「二艘だ、パンツ号とパンティー号だ」(小田島訳)。「二隻、二隻だぜ、男と女」(松岡訳)。「二艘だ、二艘だ。シャツ号とシミーズ号だ」(河合訳)。比べてみると、福田訳と小田島訳は"意気込み"を感じさせる意訳だが、やや行き過ぎ。しかし松岡訳では物足りない。原文のshirtとsmockは、男用の下着のシャツと、女用の下着のシュミーズを意味する。「襦袢」と訳した坪内逍遥訳は見事。和服の下着「襦袢」はポルトガル語gibaoから作られた和製外国語「ジバン」だから、シェイクスピアの訳語として先祖帰りしたわけだ。そして、河合訳が逍遥以来百年の歴史を経て、原文を一番正しく再現していることが分る。

その他、河合の新訳は、この作品の科白が、幾通りもの異なった詩の形式になっていることを、脚注で説明している。これは作品の解読に非常に有益だ。