スラヴ舞曲全集の定盤
★★★★★
ドヴォルザークの「スラヴ舞曲集」はブラームスの「ハンガリー舞曲集」と並んで、民謡や民族舞曲を素材とした舞曲集として広く愛好されている。彼はこれ以前にモラヴィア地方の民謡をテキストとした「二重唱」や「モラヴィア旋律集」を作曲しており、これはドヴォルザークに関心を寄せていたブラームスの推薦に依るものであったと言われている。「モラヴィア旋律集」が好評であったため、出版社のジムロック社から更に民族的作風の曲を作曲するよう求めてきて、最初のスラヴ舞曲作品46を書いたのである。ドヴォルザーク自身もブラームスを尊敬していたし、彼のハンガリー舞曲集から影響を受けたのであろう。その約十年後、作品46が大変好評だったので、さらに作品72を作曲した。このような経緯があるため、前半と後半では曲の趣が異なる。作品46は直裁的で、強弱の対比、ダイナミズムが特徴であろう。一方、作品72はより作品が複雑で奥行きが増しており、洗練されている。そして、何よりもブラームスが絶賛したドヴォルザークの旋律的魅力がこれらの作品には宝物のように詰め込まれている。これらの曲の演奏録音の定盤は何といってもこのクーベリックとバイエルン放送交響楽団とのものであろう。リズムの弾力性、ダイナミズム、音色、そして自然なフォルムとまさに定盤といえる内容である。そして、何よりもクーベリックのドヴォルザークへの愛情が感じられる演奏である。私的に最も好きな曲は全曲の中で最も長く、最も規模が大きい第16番である。他の曲とは全く趣が異なり、しかし大変味わい深い。そこから流れる郷愁の美しさは祖国への慕情に満ちた類まれなるものである。付け加えてCDジャケットもこの曲集に見事にマッチしていると私は感じる。まさに三拍子そろったすばらしい賜物である。