中身については説明するのもおこがましい。1曲目の「STARBOW」でいきなり眉間をカチ割られ、死ぬ。生き返っても重厚なまでの美奈子さんの声に包まれ、締め付けられ、もはや覚悟を決めて立ち向かうしかないようなレコード。とにかく「美奈子」が全身全霊で聴き手に迫り、ノックアウトしてしまう強力作。よってBGMで聴くとか、そういうのはヤメた方が良いと思う。
　フェアライトとかを乱暴に使っているものの、このレコードの大部分は美奈子さんの声で成り立っている。最後は本当にひさしぶりにピアノ1台の弾き語りだが、余りの静けさに本当に時間が止まってしまう錯覚を覚える。歌詞は純度の高さに合わせたかのような、彼女の「都市（まち」がシャレっ気を加えながら見事に織り込まれている。
　極めて純度の高い美奈子さんの世界。この後の作品はまた普通のフォーマットに戻った？ものだが、本当の意味のソロ・アルバムはこのレコードが頂点だと思う。

1973より活動を開始、当初より卓越した才能を発揮し、「愛は思うまま」「フラッパー」「ライトゥンアップ」など名作を発表しつつ２６年間が経ったところでこの「ダーククリスタル」が発表された。美奈子氏はこのアルバムを発表した事によって大バケしたといえる。世界で唯一無比の音楽の結晶に溶け込める人は至上の喜びに浸る事だろう。

自主制作限定版の「BELLS」以来の作品は全編打ち込み及び「Wall Of Voice」
に彩られた作品。
楽曲は、ライブの定番となっているコミカルな「NOSFERATU」「タン・タン」、
まさに代表曲にふさわしい麗しの「ギフテッド」、美奈子さんの永遠のテーマ
「街」についての集大成曲といえる「凪」等々、必殺の名曲が並ぶ。

が本作最大の焦点は、冒頭にふれたサウンド・プロダクトにある。
暗く鈍い光のなかから、鋭利で強烈な光が弾けるような様は圧巻である。
90年の次作「GAZER」と双子でもある、このまさにエッジを行く作品は
世界中で吉田美奈子しか作れない音楽を提示した。

吉田美奈子は我が国でも屈指の女性vocalistである。このＣＤでは、基本的にシンセサイザーやエミュレーターと打ち込みリズムにのせて多重録音を駆使した独自のサウンドを打ち出しており、そのコンセプトはある意味では興味ぶかい。特に、２，４，７などは美しいメロディーラインをもつ佳曲である。

しかしながら、以前の"monochrome"におけるacousticで抑制のきいた渋い音や"monsters in town","light'n up"におけるjazz/fusion musiciansをバックにした華麗で緻密な音に魅了された者としては、現在の彼女の電子的な音は、その表現力のある声と結局は相容れないのではないかと危惧する。