宗教とは別様に 〜十字架としての薔薇
★★★★☆
他の評者も指摘しているが別の言い方をすると、全13章に渡って編年的網羅的に社会運動としての薔薇十字運動の輪郭を文献に基づいて跡付けている為に、記述は抑制されていて表現は簡潔である。壮大な未知なる古代以前の文明への視線、近代科学の揺籃期に玉石混淆していた錬金術、ローマ教会からルーテル運動まで神そのものよりは現実に実体のある宗教社会、宗教組織を当たり前の前提として依存しきってしまった既存の表側の宗教意識、宗教精神に反発して裏面で興る別の壮烈な社会潮流であるテンプル騎士団、フリーメイソン、イルミナティ、シオニズム、等々との関係。又思想潮流としてのグノースチツィスムス、ヘルメティシズム、プラトニズム、ピュタゴラシズム、カバリズム、等々の諸潮流を引き継ぐもの一つとして薔薇十字をつまびらかに解明することが如何に困難な作業か、他の諸潮流の実態も明白でないのにそれらとの関係を問うたところで、薔薇十字団自身の実態すらも危ういことが判る。
古代以前の謎、錬金術の実態も今尚謎であるが、この薔薇十字団運動の実質的な創始者は、『名声』『告白』『化学の結婚』を書いた17世紀震源地チュービンゲンの新教学者アンドレーエであり彼こそがファウスト博士以前の博識者ローゼンクロイツをこの友愛団の始祖に見立てた物語を掘り当てたのだった。17世紀ドイツ、意識が肥大化し社会が変動し始めつつも半ば自覚的であれば見出されるであろう神秘主義の別の在り方が博学の人物主義という形で展望され成就されようとしていた時代。そしてそれは、この謎の数々の一つとして象徴としての薔薇、十字架としての薔薇の起源を加えなお一層厚みを増すことになったのである。
読みきってこそ意義が出てくるという本です
★★★☆☆
内容を評するのはいささか難しいです。というのも、良くまとまってはいるがどこか年表を読んでいるような味気なさがあるんですね。多分これは著者・訳者の責任というより「薔薇十字運動」そのものが「悪ふざけ」と評されることがあることからもわかるように輪郭の酷く曖昧なものだからではないでしょうか。結論の章を読んでいてもこのテーマを採り上げた著者の苦心が滲み出てくるようです。
ただ、「訳者付論」は必読です。これを読むことによりこの曖昧な運動がヨーロッパの思想上いかなる文脈で捉えるべきなのか腑に落ちる、という、本書において欠くべからざる重要なファクターになっていると思われます。小説を読むときに「あとがき」や「解説」を省いてしまう人は注意が必要でしょうね。
薔薇十字に関する概説
★★★★★
このマッキントッシュ氏の著作がもっとも手ごろにまとまった
薔薇十字に関する概観をあたえてくれる著作であると思います。
虚実いりまじったさまざまな観念がいままで薔薇十字団に
たいしてもたれてきましたが、本書は歴史的な観点からも
考察して「薔薇十字」運動についてまとめ上げています。
薔薇十字に関心がある人は必読の著作です。
薔薇十字団について
★★★★☆
この本はそのタイトルの通り中世ヨーロッパに現れた知っていそうで詳しくは知らない様な秘密結社、薔薇十字団について詳細に書いてある。成立に至るまでとかその影響とか薔薇十字団に関してはきれいに網羅されていると思う。しかし、この団の特徴上、人物名が複数登場しわかり難いところも結構ある。参考として、秘密結社の概念を分かり易く説明している文庫クセジュの『秘密結社』などを読んでおくといいと思う。
まぁ何にせよ。私にとっては非常に考えさせられる本であった。幻が幻を作り上げた人間の手を離れ一人歩きをしていく。情報の量が多い現在、昔よりもそのような幻が多く誕生しているのではないか。と考えるのは考えすぎだろうか。