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禁色 (新潮文庫)

価格: ¥935
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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心理分析とアイロニー ★★★☆☆
 三島の視点はたいていの場合アイロニー(皮肉)が色濃い。同性愛という主題も、その視点の延長線上にあるかと思われるほどだ。
 そしてしばしば読者を悩まし、あるいは啓蒙させる抽象的なほどの心理分析。だがそれはプルーストのように物語の筋を逸脱するほどのものではなく、物語の筋は筋で統率される。時間軸は基本的にまっすぐだ。そこが古典的と言われるゆえんかもしれない。
 作者のみずみずしく鋭敏な感性は、比喩や描写で発揮される。だが大方固い文で書かれ、そこに、つねに死を思わせるとも言われるところの原因があるかもしれない。作者の尊敬していた森鴎外や泉鏡花の影響もあるか。
 だがこの作品はけっこうヘビーだ。570ページ以上ある。三島美学も読んでいる内に食傷してくる。その点も含めて星三つだ。
三島ワールドの背景を深く知りたい人のための本 ★★★☆☆
本書を読みながら、この小説はいったい何なんだろうと思いました。強引なストーリー展開と、不自然とも思える人物設定。読者が分かろうが分かるまいが知ったことではない、と言わんばかりの難解で気負った文章。

あくまで私の個人的な印象ですが、もしかしたらこの小説は、完成された「作品」というよりは、一種の"習作"と言った方がいいのかもしれないと感じました。つまり、若き日の三島由紀夫が、作家として更なる成長を遂げつつ、人間の幅を広げていく過程において、自身の葛藤や不安、欲望や野心を小説に託して爆発的に書き付けた"習作"ではないかということです。

とにかく読むのに時間のかかる本ですが、他のレビューワーさんも書かれているように、三島という人間・作家に興味がある人にとっては非常に貴重な資料だと思います。一方、そうでない人にとっては苦痛の一冊になる可能性が高い本だとも思いました。少なくとも、初めて三島由紀夫を読む方には本書はお勧めしません。三島嫌いになってしまう可能性が高いように思うからです。

逆説的に言うと、このように完成度が今ひとつと思われる作品であっても、読者に強烈なインパクトを与えてしまう三島は、やはり並外れて偉大な作家なんだなとあらためて思いました。
二つの対立 ★★★☆☆
女に振られ続けた俊輔が、美青年悠一を操って彼女たちに復讐するという構成だけでも面白いのだが、そこにゲイや美、芸術と生活の関係が織り交ぜられていて、量、質共に重層的だ。

操ること、あるいは演ずること。これらはフィクションを形作るものだ。俊輔が操り、悠一が演ずる様は、正に一つの作品を上演していると言って良い。ただし、俊輔はその作品の絶対性を追求したが、他方、悠一は作品として閉じてしまうことを拒んだ。脚本のみならず自ら舞台にも立った、演劇好きな作者は、監督、演者の間の、このような衝突を見ていたのかもしれない。

精神と肉体の完全な混合が本書の一つのテーマだと思われる。精神は生まれたときから肉体を持つという俊輔の持論は、俊輔が悠一に歩み寄ったように、一方的に精神を肉体に接近させた行為と矛盾する。ここに本書の破綻があるように思われる。
誰が悠一を演れるのか ★★★★★
三島の禁色というと「ホモ」という文字が一人歩きする。
これがこの小説の不幸なのだと思う。

南悠一の類まれな美に出会った時、老醜の作家は自分を裏切り嘲笑し、屈辱を負わせてきた美貌の女たちへの復讐を思い立つ。
老作家の思惑通り、悠一という稀有の美青年に出会った女性たちはたちまち作家の思い描く美青年への恋に苦しむ。彼女たちはそれぞれに貴族的であり淫蕩であるあの時代の女たちである。恋の手管も大人の駆け引きも知り尽くした女たちの嫉妬や邪推、あるいはその冷酷が悠一の冷酷に破綻させられていく様はサスペンスを読んでいるより面白い。
階級社会がまだ尾を引いているデカダンの時代にあったゲイの店も、美人局まがいで糊口をしのぐ貴族崩れも彼らに色濃く宿る文明は遥かに高見にあり、現代におけるゲイバーやセレブたちとは比べ物にならない。
知的水準ももののか、時代の躍動感や、闇の色さえ別物である。
美に復讐される美貌の女たちや、美に翻弄されるゲイの男たち、仕掛けた罠に翻弄される作家に加え、悠一自身も自らのナルシズムに翻弄されていく。
だが、何よりも悠一の妻の康子の存在が恐ろしい。
複雑に錯綜する彼らがそれぞれの帰結を迎えるこの物語は、精緻なモザイク画であり、曼荼羅を思わせる複雑で妖しい文様を描き続ける。
そのラストシーン。ここに南悠一の本質が描かれる。
このラストにやられた。
小説巧者であった三島を堪能できる一冊。

こんな面白い物語をなんで映像化しないのだろうと思う。
でも、南悠一は誰がいい?

三島にとっての理想の美青年像だが、女の目から見ると? ★★★★☆
主人公は三島が造り上げた、いわば彼にとって理想の美青年像なのだが、女の目から見て別に魅力的だと感じられないのが、なにか愉快だ。まだホモセクシャルというものが社会で広く認められていない時代、この作品が文壇に受け入れられたというのも意外なこと。きらびやかなまでの才能、鬼面ひとを驚かす行動、つねにジャーナリスティックな話題に事欠かなかった作者だが、やはり一世一代の幸運児なのだろう。