とにかく滅茶苦茶 とにかく楽しい
★★★★★
もともと融通無碍な作風のひとだが、これは極めつけだ。過去、星新一、筒井康隆、小松左京といったSF作家も新聞小説を手がけているが、ここまで滅茶苦茶をやった人はいなかった。それも、緻密な文学的計算による実験というよりは、どう考えても本当に連載の中で行き当たりばったりに書いているとしか思えないところが凄い。そして、それで読者としては何の不都合もないところがもっと凄い。とにかく読んでいて無類に楽しいのだ。
妻に離婚を言い渡された気弱な中年作家を主人公に、若干内省的な立ちあがりは、ほんの冒頭だけ。話はどんどん暴走していく。とんでもない偶然の連続や幽霊の出現は序の口。メソポタミア医学を修めた「流しの女医」は現れるわ、作者(主人公ではない、この小説の作者)病気のためと称して小学校低学年の娘が代筆に立つわ、とにかく呆れ、大笑いしているうちに、もう無理矢理にとってつけたとしか言いようがないエンディング。それでも不思議な感動は残る。芦原すなおは、天然の才能としか言いようがない。
直木賞作家に連載を依頼して、こんなものを書かれた毎日新聞社は激怒しただろうか、大喜びしただろうか。