石原の意外な素顔
★★★★☆
日本陸軍中の異端児として知られた石原莞爾の評伝。かなり詳細なものである。読了してわたくしがもっとも意外に思ったのは、石原の師団長としての部下への暖かなまなざしである。食事や風呂の改革など本当に部下思いでなければ発想できないことだ。むしろ有名なのは演習中に田畑を荒らさないように訓令したエピソードだろうが、わたくしには孤高の天才児としての思い込みがあっただけに、石原の人間的な側面には意表を突かれた。
本来、石原の上司板垣征四郎がA級戦犯として訴追されている以上、石原自身にもGHQの魔の手が伸びてきて当然だった。しかし石原は逆に「原爆こそが許されない戦争犯罪」と公言して憚らなかった。その姿勢がかえってGHQに「この男に手を出したらアブナイ」と思わせたのだろう。しかしこれを石原の作戦勝ちとみるのはちょっと違うように思われる。結果的に石原の気迫が勝っただけであり、戦犯としての訴追を石原が恐れていたようには見えないのである。
他にもいろいろと参考になるエピソードが紹介されているので、石原莞爾に興味・関心を持つ読者には、やや大部ではあるけれども一読を勧めたい。
個人的には☆5つだが・・・
★★★★★
私は面白く読めました。それは昭和史に興味があり、福田和也の「地ひらく 石原莞爾と昭和の夢」を読んでいたため、時代背景や石原に関する予備知識があったからだと思います。
残念ながら本書では、国内の状況、世界情勢や中国国内の勢力などの説明があまりにも簡単に記されているだけです(例えば長征に関しては3行)。また最初に満州の簡単な地図があるのみなので、半ば以降に出てくる漢口、延安、瑞金など中国の地名がどういった地域なのか理解できないと面白く読み進むことはできないと思います。
従って個人的には☆5つですが、予備知識なしに読み進むのはつらいし、分厚いだけの本となるでしょう。
歴史書としの価値あり
★★★★★
物事の結末は、最初に意図したもの、目的とはまるで違うものを迎える事がある。満州国とはその典型事例である。日本を良くしようとした人物が、天才であるが故に、指揮系統を乱し、後の陸軍暴走の原因を作ってしまう。彼はこの国への理想を掲げ、ビジョンを示せた稀有な人物であったが、思想のもとが、宗教であるが故に、主流にはなれず挫折する。自らの手を離れた満州国は、当初の目論見とは外れた方向へ進んでしまう。
この本は、彼の思想・発想の軌跡をつぶさにおってくれたため、彼が何を考えていたかを、想像する事ができた。同時に、今、改革を叫ぶ小泉が、結果として挫折し、その副産物が弱った日本を更に苦しめていく気がしてならない。