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地ひらく〈上〉―石原莞爾と昭和の夢 (文春文庫)

価格: ¥760
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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壮大な歴史小説として読んでいます ★★★★☆
本書(上巻)は、石原莞爾の生涯のうち、幼少期から満州国建国までが描かれています。
文体は歴史書というよりは、司馬遼太郎の歴史小説に近いと思います。
なので、小説は読むけど歴史書はちょっと、という人でも読みやすい本だと思います。
小説風の石原の描写が少々と、当時の状況が交互に描かれており、史実に関してはかなり突っ込んで解説されています。
例えば、戦時中の日本陸軍は、第一次世界大戦当時のドイツを模倣しており、そのために敗戦も必然性があったという洞察は、
歴史認識としてはうなずけるものになっており、著者の高い見識を感じることが出来ます。

著者自身が、石原莞爾に心酔しているようで、かなり好意的な書き方になっており、他のレビュアーの方の書いている通り、
筆者自身も違和感を感じることがありました。
逆に石原がしたことが正しいと全肯定することは、ある意味危険なことのような気がします。
また石原自身の法華思想への傾倒過程の描写が少なく、この辺も物足りません。

しかしながら、石原莞爾を軸に物語が展開されているため、逆にそこが新しい視点での近代史を描き出していると思います。
石原莞爾のことをしっかりと書きたい、という著者の情熱が、自虐史観とは違う冷静な目での歴史史観を作らせた気がします。
従って、解釈は読んだ人それぞれでしょうが、石原莞爾の評伝とともに、その視点にたった日本近代史とみれば、
本書の価値は大きなものと言えると思います。
一種の悪書。 ★★☆☆☆
危ない本である。こういう本に影響されて「戦略」という言葉を誤解し、誇大妄想的な発想が「戦略」には不可欠であると思うような人間が出てくるとしたら、一般常識人にとって、これにすぐる迷惑はない。
石原莞爾は、なるほど類稀なる知性と創造力の持ち主であったかもしれないが、けっして偉大な人物でも尊敬に値するような人間でもない。そのことだけは、この本を読んでよく理解できた。
著者の学者としての評価がどのあたりにあるのか知らないが、おそらく人間として根本的な部分で、思考や判断に、あるいは価値基準そのものにニヒリスティックな歪みがあるのではないかと疑いたくなる。
戦争の歴史は人間にとって、紛う事なき事実の歴史である。事実は事実として問題にする限りにおいては、否定することが出来ない。だがそれは戦争という殺し合いを、未来においても、あるいは永久革命的理想においても、否定し得ないということをまったく意味しない。
戦争を撲滅するための戦争を肯定する事と、戦争の撲滅を掲げて戦争を始めたという事実を肯定することは、言うまでもなく別の事柄である。
石原莞爾とは、所詮、人間同士の殺し合いの一つの端緒を策謀した人物にすぎないし、どのように糊塗しようと、中国に対する大日本帝国の戦争行為は、他国への侵犯、他民族への侵略であり、その文化の所産と人間の生命に対する蹂躙なのだ。事の本質はそれ以外に無い。
そして、仮令「歴史」が学問であろうと、とりわけ人文科学の一科であるそれは「価値」を脱却し、また度外視することは、その性質上不可能であるし無意味でもあるはずだ。「価値」は、むしろ人文科学の特長なのである。超越性を信奉し「価値」から解脱したような身振りに陥る時、「歴史」は歪んだ相貌を露にし、現実に生きる人間の未来に、不幸な反復を強いることになろうだろう。

日本の近代史のおさらいにどうぞ ★★★★★
石原莞爾の人生を書くために、戦前の世界情勢まで書かなくてはならなかった、という本
綿密かつ有機的に絡まり合った世界情勢や日本の情勢が
石原莞爾の人生の各場面の行動や思念に大きな影響を及ぼしていくわけである
評伝というのは当人の人生、ついでそれに関連する身近な情勢を、と書いていく
ちょうどそれとは正反対の書き方なんだよなあ
結果として戦前の歴史を書いた中で石原莞爾がいるって感じだ
なぜこういう書き方を選んだのか、といえば著者が石原莞爾が好きで尊敬していたからだろう
兵士には優しく、雄大な理想を持ったアジア主義者であり、天才的な頭脳をもっていて
あるいは世界情勢の本質を見抜き、来るべき時代の行く末を見抜いていた、そういう肯定的な評価
組織のルールは一切無視するKYな人物、満州事変を引き起こした侵略主義者、そういう否定的な評価
肯定的な評価だって兵士に優しいってのは人格面だと見ることもできるし
あるいは晩年の予言者的な振る舞いから現実を超越した人物と見ることもできる
しかしこれらの要素を優れた戦略家の人格として一本の筋を通して説明しようと思うと
言動という出力に対して当時の情勢という入力を説明する必要がある
だからこその遠大な本になったんだろうなあ、と
評伝も批判するためや心酔しているだけなら半径数メートルの記述だけで済むわけだがな
また当時の情勢をどう理解して行動したか、というのを同じ目線で書かなくては
歴史の教訓を引き出すことは不可能なはずなのだ。今の基準で裁くな、と
WW1の戦史から経済まで広大な分野に関しての描写があるので
戦前の歴史を一気におさらいすることができるって意味では異様にお買い得
日本の歴史を考えるとき必読の書 ★★★★★
一人の軍人の半生を描きながら、日本の戦争の歴史を振り返っている。
上巻では明治の日清戦争から満州建国までを描いている。

今までこの時代を扱っているの著作を手に取ったとき感じていたのは、、右か左かはっきりとしたものが多かったこと。
ただ軍部を糾弾するものか、弁護に徹しているものかばかりだったような気がする。
しかしながら、この書は、比較的中立な立場で日本の歴史に触れているように思う。

また、記述は軍部にとどまらず、政治経済、国際問題、ヨ-ロッパ戦史などを網羅しており、
当時の世界の情勢が手に取るようにわかるようになっている。

石原の考えを検証することにより、論理的に歴史を考察しており、日本の敗戦の原因をドイツの第一次大戦までさかのぼる考察には、目から鱗が落ちる思いがした。

日本の戦争を考えるとき必読の書であると断言する。
歴史は文学者に書いてもらうのが良い ★★★★★
 岩波系の歴史を学ばされた世代です。戦前は、日本軍の非道、中国侵略、ファシズム、超国家主義による暗黒の時代などと簡単に言うことは易しい。マル系の進歩史観で歴史を善、悪の観点から書かれすぎた。世界平和、国際協調、門戸開放、人種差別撤廃、互恵など美辞麗句の裏には実はしたたかな西欧中心の知恵と狡猾があった。学校では諸国民の信頼と善意によって歴史は動いていくように習っちゃった私。結構、児島譲さんの歴史ものなど読んではいたんですがね。自虐史、自慰史でもない歴史を誰か書いてくれないかなと思っていたところ、いい本にであいました。江藤淳は日本人特有の変身願望を戒めました。歴史、政治は大衆の願い、熱い善意でなんとか変えられる、いや変えねばならないという清水幾太郎も晩年転向しました。社会学者には書けない文体、内容です。いろいろ考えさせられるいい本です。