異なる立場の意見も公平に扱い、自分の意見には批判的な視点を向けようという著者の言葉だけでない姿勢には、とても好感がもてた。
ただ、歴史的な流れにそって、研究を紹介していっているので、なかなか現在はどういうところに落ち着いているのかということが見えてこなかったり、相反する研究結果があとから出てきたりして、少しじっくり学ぶ方法では読みにくかった。説明も難しいからか、訳や説明がよくないからかわからないが少しわかりにくいところが見られた。
そして、感情に存在する大きな4つの学派のうちの1つで、著者も属する社会構成主義派の意見というのが最もこの本を読んでもよくわからなかった。
感情が生得性とは関係がない、感情は私たちが意志で行うものだが、それをただ、パッションとして解釈するだけで、自然にその方法を学ぶ、怒りを子供や動物はもたない、感情は脳の原始的な部分とは関係がないなどといった構成主義の主張は、ばかばかしく直観に反するばかりか、1つ1つに反証が山ほど積み上げられるし、他ならぬ著者自身それをよく承知して、脳の研究などを紹介していたことは疑いがないし、その主張者自身は初めからある程度それを承知していたと何度か著者も紹介している。しかし、著者は構成主義をしっかり検証しようとする意見はのせていなかった。何か、仲間相手に言いにくいことでもあるのか、あるいはまだ遷移期にあったのか、実証しようとする価値もないと思われているのか?などと不思議に思った。この本は同じ学派へのメッセージでもあったのだろうか。
それに、著者含め構成主義の意見には、あからさまな進化への無知、例えば、怒りが社会的に意味があるとすると、それは進化とは「関係がない」ことだと思っているフシがある主張、学ぶものだといえば、生得性とは関係がないと思っているようだなどなどが見られた。私はむしろ構成主義の研究は、罪悪感の進化、しっぺ返しの進化の研究など社会生物学に大きく貢献したのではないかと推測しているのだが・・・。