緊張感は傑作を生む
★★★★★
ストーンズは名作タトゥー・ユー以降(ライブ盤を除く)はあまりパッとしませんが、このアルバムは別格。ソリッドで痛快な佳曲で構成されています。 この時期、ミックが初ソロアルバムを出しました。サウンドはゴージャスでしたがミックのボーカルがハマるのはやっぱりこっちの方でした。 このアルバムはキースが主導したといわれていますが、後に出るキースのソロアルバムと比べると、キースが「我」を貫いたとは考えられません。 では、このアルバムの凄さは何なのでしょう? ミックがバンドに対して相当不義理な態度であったのは間違いなさそうですが、恐らくキースを含む他のメンバー全員がミックのボーカルが乗ることを意識して仕上げたということ。また、放蕩の末に戻ったミックが演奏を聴いてその事実を認識したことではないでしょうか。 名刀が鞘に収まる…そんなハマった感のあるアルバムです。 ストーンズはメンバー交代時期にあたるベガーズ・バンケットやブラック・アンド・ブルーは共に異色作であり歴史的な名盤となっています。本アルバムもそれに近い緊張感の中だったからこそ生まれたのかもしれません。 後期ストーンズにみられる「手を抜いた曲」が一曲もありません。個人的にはシャッフルのリズムが心地よい「ウイニング・アグリー」が大好きです。
ドライでタイトでウェットなキースのアルバム
★★★★★
僕が始めて聞いたストーンズの曲は「ハーレム・シャッフル」。
多分MTVだったと思う。
当時、中坊だった僕はなけなしの金を払ってこのCDを買った。
毎日、貪るように聴いた。
ストーンズと言うバンドも良く知らなかったし、ただMTVに映るギタリストがかっこいいなという程度しか知らなかった。
そして、暴力的な音の塊にノックアウトされた。
以後は、あなたと同じように音源を遡り、インタビュー記事を読むようになりストーンズと言う存在が分かるようになった。
キースのインタビューは「本音」しか言わないから無駄がなく、ストレートで直感的だ。キースのインタビューが載るロッキング・オンは必ず買う。
音楽の深みを再発見させてくれるキースには毎度感謝だ。
そんなキースがリーダーを務めたアルバム。
悪いわけがない。
買って損無し!
ストーンズのDOG YEAR
★★★★★
パンクロックやニューウェイブのアーティストたちが目の敵にしていたのが、60〜70年代の大物ロッカーたちだった。中にはWHOやドアーズのように、ラジカルなパンクロッカーから先輩扱いされるアーティストもいたが…。ストーンズが特にやり玉にあげられることが多かったのは、金の匂いがしたこと、それに現役バリバリだったことが原因だったと思う。
意気盛んだったジョン・ライドンの発言に対して、リーダーであり、バンドのスポークスマン的役割でもあったミック・ジャガーは、パンクロックをほぼ完全否定した。ただし、『ロックは使い古された表現で、もう何も期待できない。世界を変える力なんかない。パンクロックだって同じだ』と。それは、60年代後期のヒッピー全盛時代にも彼の口から出た発言だった。そして、その発言はその後のストーンズを決定づけることにもなった。
80年代初期のディスコブーム、それに乗っかる形で解体していく大半のニューウエイブ勢を横目で見ながら、ストーンズはストイックとも言える、一見地味な作品をリリースし続けていた。今日紹介するのは、86年発売の『DIRTY WORK』。
ストーンズのファンが選ぶ代表作は、70年初期〜中期の作品が多い。ブルースの影響が濃い『レット・イット・ブリード』、ニューオリンズの香りが漂う『スティッキー・フィンガーズ』、その続編の『メインストリートのならず者』。この3枚はほとんどのストーンズファンのフェイバリットではないかと思う。確かに分かりやすいし、名曲も多い。
しかし、久々にストーンズを聞き直してみて思ったのは、その後の作品がもっと凄いんじゃないだろうかいうこと。どこがどう凄いのか?
結論から言うと、ストーンズの音楽は『音の文学』だと思う。ミック・ジャガーの歌がそう思わせることが一番の原因だが、黒人音楽を異化してしまうキースのギターがあってはじめて、ストーンズの音楽は成立している。キースのギターに耐えられるヴォーカルは、そういないだろう。いや、ミック・ジャガー以外にはいないのではないかと思う。要は文学を歌うことのできるヴォーカリストなのだ。
『DIRTY WORK』には、分かりやすい名曲はない。その理由は明確だ。70年代初期にロックが持っていた全体性は、対ベトナム戦争に象徴される反社会を前提にしたものだった。しかし、今やその旗手だったストーンズが槍玉にあげられるという現実。それ自体が、ロックには社会に対して何の力も持ちえないことを皮肉に証明していた。
このアルバムには贅肉がない。もっと言うと、社会からもパンクロッカーからも否定されて骨格だけになったストーンズの1986年が刻まれている。ジャケットは、まるで黒人が着るような原色のスーツとシャツ、パンツをまとったメンバーが、しかし黒人にはないようなだるくて厳しい表情でソファを囲んでいるというもの。そして、その音楽は、黒人音楽をベースにしながら…という、従来のストーンズのものではなくなっていた。
1曲目のイントロで、ハイハットとバスドラの上に絡みはじめるキースのギターは、黒人音楽を完全に抽象化してしまっている。そして、そこにストーンズの本質はあると思う。抽象化されたこのギターなくして、ミック・ジャガーの歌は成立しえないのだ。
異化された黒人音楽から抽象化された黒人音楽へ!ストーンズが凄いのは、80年代中期の浮かれた時期に、その革命を自然にやってしまったことにある。当時は、誰もこの作品がそれほど凄いものだとは思わなかった。僕もそうだった。
キースのギターを聴くなら・・・
★★★★☆
レビューでの評価が高くて意外ですが、ドラッグ漬けから立ち直ったキースがストーンズでギターを弾きたくてたまらないのにも関わらずミックがソロワークへと走ってしまった頃のいわばキースのストレス発散的な要素の強いアルバムです。レコーデイングに集中できなかったのかミックの投げやりな歌い方は正直耳障りですし、まとまりという点ではかなり厳しい点数を付けざるを得ません。が、ギターを聴くだけならこのアルバムはうってつけです。ワンヒットでのロニーーのアコギは最高のかっこいいし、2曲目のファイトではキースの切れ味の凄まじいカッティングワークを堪能できます。他にもいい曲が多いだけにもう少し丁寧な仕上がりにしていたら・・・と思わずにいられない作品です。
いかにも80年代風のポップで軽めな音が特徴
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86年発表。全く従来通りの作風ながら、ジャケットの衣装にも現れているような典型的な80年代サウンドになっているのが特徴。比較的軽めでポップな音はドラムに顕著に現れている。おそらくヘヴィーなストーンズのファンはこういった80年代の音が嫌いな人が多いため、このアルバムが取り上げられる事は少ないと思うが、以降の作品と比べてみても、まだこのアルバムには現役の力強さが曲そのものにも感じられ、ボブ&アールのカヴァーでヒット曲の3.にも“らしさ”を強く感じる。決して駄作ではないので注意。(レゲエの5.も新鮮な響き) むしろ現代では新鮮に聞こえるサウンドだと思う。キースが歌う10.は無くなった準メンバーのイアン・スチュワートに捧げられた曲で、イアン自身のピアノ・ソロへ繋がっていく。