中身を見ずに買う勇気のないアマゾンペイヤーの方へ
★★★★★
上・下各巻300語程度(中文)の大学入試過去問を5題づつ取り上げて、
精読をドリルします。見開きに語句説明があるので、ほぼ辞書なしでOKです。
どちらの巻も1−2日あれば通読可能な量ですし、字も大きくて見やすいです。
ハードルは題材文の質的難解さです。構文も単語も充分高校生レベルではある
のですが、題材の哲学性にどれも正直凹みます。
(難文は90年代の慶応だけかと思っていたが、聞いたことのない学校でもこん
なに難しい文を出すのかと、驚く。)
各例文解説の最後にコーヒーブレイクと称する「原著内容自身に対する批評」が
あって、そこが類書を凌ぐ唯一のプライオリティーとなっています。
最難文である下巻・7番(東北大)を例にとりますと・・・。
言葉(概念)と対象(経験)にはズレがある、というお話なのですが・・。
英文はこのズレをalienation(疎遠。映画のエイリアンです。)と表現して
いるのですが、著者はdiscrepancyと言うべきであると。
そしてそのズレに対する原著の論考が甘い、云々と。
以降は本書購入後に読んでみてください。面白いです。
ただ、あくまで英語参考書のワク組みの中にある為か、命題の本質には踏み込
んでいません。著者の批評がどれも尻切れトンボになっているという欲求不満
が残ります。ここまで読者を引っ張っておいて・・・お、終わりかい?って
恨みが尾を引きます。
まあ、それでも、思索の材料としてこういった評論文に触れてゆくことは、
高校生ならそろそろ必要かも、とおもいます。英文解釈法の技術書としては
スカスカしていますが、類書と一線を画す「独善的孤高」はカイでしょう。
ついでに言わせていただくと・・・。
非常に個人的な矮小意見ですが、多田正行「思考訓練の場としての・・」の解説
の方が、英語学習としては読んでいてはるかに楽しいです。著者の趣向が読み手
と合うかどうかだけなのでしょうけれど・・・。
平成に生まれた英文読解の奇書
★★★★★
昭和という時代はおびただしい量の英文読解参考書の名著が出版され、また同時に受験英語に新しい視点を与える奇書が多く出版された時代であった。本書は英文読解参考書の多くが「あっさり」してきた平成において唯一の奇書といえる代物である。
本書の最大の特徴は英文解析を(1)構造分析(2)表現分析(3)内容分析の3つの段階に分けていることにある。10の英文を用いてじっくりとこの修練をすることができる。特に注目すべきは(2)(3)である。構文とりに終わらず英文の「意味」を追求するという真の精読の術を学ぶことができる。この本が出版された90年代初頭に英文の「意味」を問うという視点はかなり斬新なものであったのではなかろうか。
また、本篇の前にある「英文読解法」が秀逸である。この部分を一読すれば、複雑な構文の分類に捉われることなく、かつ十分に構文の基盤を学ぶことが可能である。随所にある「構文の特殊研究」「和訳術」も受験生―とりわけ難関国公立受験者―には参考になるであろう。英文はトップ校レベルであるが、内容は完全に院レベルであるため大学院の受験生にも役立つだろう。
構文、表現、内容をここまで体系的にまとめた書物はなく、私はかなりの名著だと思うが、現在の受験生にあまり浸透してないのは説明および訳の難解さ、独特のとっつきにくさが原因ではないだろうか。表師が改訂版を出版し、よりわかりやすいものにすれば、本書の需要はまだまだあると思う。本書に興味をもたれた方はできれば本書を中身をみて、ついていけそうであれば半年くらいかけてじっくり何度も挑戦して欲しい。それだけの価値のある本だと思う。