『北村薫の創作表現講義』の姉妹編的一冊
★★★☆☆
北村薫が新宿の朝日カルチャーセンターで2009年の1〜2月にかけ、3回にわたっておこなったアンソロジーに関する特別講義をまとめたものです。
北村薫には『北村薫の創作表現講義―あなたを読む、わたしを書く (新潮選書)』という講演記録が以前ありました。「様々な解釈は作品の中に隠れてい」て、「だからこそ、読むということが、ひとつの創作になるわけ」であり、「読むというのは、自分がどういうところに立っているか----自分の位置を示す行為に外な」らないという、いわば読書を通じて自分を見出す自由を教えてくれる書です。
今回の書『自分だけの一冊』も『創作表現講義』と通奏低音は似通っているように思われます。
アンソロジーのためにどんな一編一編を選ぶか、それは選者がどんな自分であるかを見出す作業であると著者は言います。
「誰が水にもぐるかで、採って来る魚は変わる。そこが面白い。(中略)アンソロジーは選者の個性を読むものです。」(164頁)
そして同時に、アンソロジーをきっかけとして収録作の作者の別の本へと、もしくは類似のジャンルやテーマの書へと、読者がいざなわれることがあります。「アンソロジーは別の本への呼び水」となり、読者の読書体験にさらなる幅と奥行きを与えてくれるのです。
一方で、アンソロジーはやはり編者と読者の間で好みが異なる場合もあるやに思われます。様々な(未読の)書き手の作品が編まれたアンソロジーに手を伸ばすことに私が臆しているのもそのことが一因です。
編者と読者の好みが一致したときには幸福が生まれるでしょうが、そうではない不幸な場合についての言及が今回の北村講義にはなかったように感じ、少々残念な思いが残りました。