サントラというよりは…
★★★★☆
日本映画史に残る大作「八甲田山」。一時期某携帯電話会社のCMにその音楽が使われ賛否両論含めて話題になった時期でのこの音盤の登場は偶然とはいえなかなかのタイミングでは?収録内容に関してはサントラというよりは映画中で使用した素材を基にレコード或いは演奏会用に新たに編み直した管弦楽作品であり(ゴジラなんかにもありますね)、初発売時期を考えると世界的にも先駆的な企画であったと思われる。映画音楽において芥川がいわゆるライトモチーフの技法を好んで用いたため、この作品でも同一素材の繰り返しの使用が目立ち、また映画の内容と相まって、ドラマチックな盛り上がりや展開という観点からは一歩引かざるを得ないが、しかしながら音楽を聞くだけで、この映画を観たことがなくても八甲田山の雄大な姿や厳しいという言葉だけでは形容しきれないであろうその冬の寒さを想像することは難しいことではないと思われ、その点では芥川を日本のR.シュトラウスになぞらえることもできるかもしれない。併録の演歌?についても知らずに聞けば少し洒落たバラード風演歌とも感じられるし、メロディメーカーとしての芥川の面目躍如と言ったところではないだろうか。クラシック愛好家には70年代の日本のオケの貴重な録音として聞くことも可能だろう。
映画の感動が蘇るサントラ盤
★★★★★
70年代の日本映画の代表作の一つである名画『八甲田山』のサントラ盤が初CD化。今までCD化されていなかったという事に少々驚かされるが、こうして今回CD化され日の目を観たのは嬉しい限りである。
音楽は映画で使用された順に配置されているので映画のイメージを追いやすく、『八甲田山』の世界に入り込みやすい。
作曲者の芥川也寸志は、この『八甲田山』のサウンドトラックで単なる映画のBGMではない『音楽による八甲田山の世界』を見事に作り上げている。
当時の日本映画は、まだ音楽を効果音的に使う手法を取っていた為、抽象的な音楽を劇中に使用することが多かった。その為、映画を観ている者の心に、使用された音楽の印象が残ることは少なかった。そんな日本映画の音楽に芥川也寸志は洋画音楽の手法を取り入れ、それぞれテーマ毎に旋律を作り上げ、それらをアレンジしたものを場面毎に配置していく事で、効果音としての音楽ではない、映画と同化した一つの『音楽作品』を、この『八甲田山』の音楽で作ることに成功している。
メインテーマを始めとする数々のそれら叙情的な旋律は、映画に写し出される八甲田の大自然の情景と見事にマッチし、時には美しく、時には恐ろしく、時には悲しく、観ている者の心に強く印象づけられていく。
だから、このサントラ盤で芥川也寸志の作り上げた音楽に触れるだけで、映画『八甲田山』の様々な情景や感動が音楽にあわせて次々と蘇り心に迫ってくる。
ただ、残念なことにレコード盤からのCD化の為、かなりの数の劇中使用曲が収録されていないのが惜しい。
できればボーナストラックに歌を入れるのではなく、CD収録時間フルに音楽を入れたサントラ盤を出して欲しかったが、音源の編集やマスタリングなど様々な問題があって新しく曲を追加するのは無理なのだろう。
またボーナストラックの歌も、映画の世界観とはあまりそぐわない内容で、個人的には収録しなくても良かったのではと思う。
マイナス要素もあるが、このサントラ盤がCDで再発されたお陰で、その音楽世界に触れ、堪能する事で映画『八甲田山』の奥深さを更に知ることが出来た事を思うと、★5つの価値は十分にあると思う。
音楽は素晴らしいが難点も
★★★☆☆
日本映画音楽史に大きな足跡を残した芥川也寸志の作品のなかでも、『八甲田山』の音楽は多くの人の記憶に残る作品のひとつといえるだろう。八甲田山の音楽を委嘱された芥川は、実際に現地を数回訪れ、イメージを膨らませて作曲に取り組んだという。「美しく、悲しく、雄々しい」とも形容されるメインテーマが、童謡「月の沙漠」にヒントを得て作曲されたことについては芥川自身の証言があるが、抒情的なメロディーは勿論、主旋律と副旋律の処理も見事で、聴きごたえがある。西洋音楽の技法を良く消化したうえで、無理のない形で「日本的」な音楽に仕上げた傑作といえるだろう。CD付属の解説によると、芥川が手掛けた映画音楽で、サントラ盤が出たのはこの八甲田山が初めてだったというから、芥川としても自信作だったのだろう。
このCDは、芥川自身が東京交響楽団を指揮して録音した、当時のサントラLP盤の内容をそっくり移し替え、ボーナストラックとして、メインテーマ二つに詞をつけて演歌調にアレンジした歌(五堂新太郎)を収録したものだ。
芥川の音楽をじっくり楽しみたい向きにはお勧めできる内容だが、難点もある。一つは、かつてのLP版の紙ジャケットをミニチュア化した「紙ジャケ」を採用したため、解説の文字が非常に細かくなり、熟年層には読みにくい(読めない)と思われること。もう一つは演歌調の歌。これについては人によって好みの違いがあるだろうが、悲壮で凛とした映画の世界を、必要以上にメロドラマチックにしてしまい、私としてはなくもがなという印象だった。映画との関連でいえば、軍歌「雪の進軍」でも入れたほうが良くはなかったか。
価格も安いとはいえないし、メインテーマ二つ(映画の冒頭と最期に流れる)を含め、さわりの部分は、芥川の作品を集めたCD(例えば『芥川也寸志forever』)にも収録されているので、さわりだけ聞きたい人にはそちらの方がお得かもしれない。