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市場リスク 暴落は必然か

価格: ¥2,520
カテゴリ: 単行本
ブランド: 日経BP社
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完全市場のもろさを暴露 ★★★★★
原題は"A Demon of our own Design"「我々が創りし悪魔」で、自分たちがこの「不安定な金融マーケット」を創ってしまったことについての、懺悔の意味が込められているのでは。著者が働いてきた投資銀行、ヘッジファンドという少し前の最先端、サブプライムショック後の今では「衰退していく恐竜」にもたとえられる業界モノ。その変遷と彼らが巻き起こした金融イノベーション、そしてその弊害として頻発するようになった「暴落」リスクについて。マーケットの急激な変動が過度のレバレッジによって発生することは他著者も指摘している通り。著者は根本原因のレバレッジそのものの規制を主張している。

逆に空売り規制などのよくある「市場に対する規制」には一貫して反対の態度。というのも、規制を作れば対応するシステムがさらに複雑になり、思いもかけぬところで暴落リスクが顕在化する、というもの。

量子力学やカオス理論、ネットワーク理論、生物学などを援用し、
「全てのリスクを見通すことはできない」
「密結合したシステムは脆弱」
「過度の最適化は想定外リスクに対して無力」
という主張はおっしゃる通りで、説得力が高い。

マーケットが理想とした「情報が瞬時でいきわたる完全効率市場」は、システムとして非常にもろいということは大きな皮肉。金融システムはグローバル化することにより世界のマーケットを密結合に変えてしまい、NYでの出来事がロンドン、東京、そして新興国マーケットに多大な影響を及ぼすことになった。それを粗結合に戻すことは「情報の流通を遮る」ことになり、大きな困難が伴うだろう。

とすると、彼の主張する
「アクセラレータとしてのレバレッジを強く規制すること」
は非常に的を射ているのでは。
#それだけでは弱いかもしれないが、他に選択肢がない、という意味で。
訳は非常にこなれていてレベルが高い。金融用語もきっちり理解して訳していることがよくわかる。他の翻訳ものも、このくらいのレベルでがんばって欲しいなあと思う。
金融商品の複雑さが今回の金融危機の制御を難しくしている。 ★★★★☆
 世界的バブルのもう一つの原因である「金融工学」。本書はサブプライムショック以前に書かれているが、金融工学と金融市場システムの問題について考えるヒントは多い。金融工学が金融商品を複雑にして、金融市場システムを不安定にしている構図がよくわかる。

今、議論されているように、たとえ金融市場を規制したとしても、複雑性を放置したままでは、かえって問題を悪化させるおそれがあるというから厄介だ。著者は、金融商品をシンプルなものにして、金融市場の複雑性を減らすよう提言する。危機を増幅するレバレッジも減らすべきだと言う。



リスクをヘッジする手段は、何もやらないこと? ★★★★☆
 著者は、ウォール街の投資銀行で、リスクヘッジに関する仕事に関わっていた、その実体験を赤裸々に述べている。
 エピソードが実名入りで書かれており、ノンフィクションとしても読み応えがある。しかし、金融の知識が無いと、読み込むのは難しいと思う。
 個人的には、リスクヘッジを行うことが、更にリスクを生むといった、リスクヘッジの合成誤謬が興味深かった。この考え方は、金融以外でも、プロジェクトを進める際の考え方として、参考になるのではないかと思った。
必然なんて書いてない ★★★★☆
ザクッと言えば、現在の金融システムが如何に危ないかとここ数年の投資銀行内部で行われていた事柄の紹介と言った所です。実名がかなり出ています。黒木亮の巨大投資銀行の内容ともだぶっているところがあります。
株式や債権の投資を行っている人や金融関係の人にとっては、とても参考になるし、読み物としてもまずまずです。
中程で冗長な部分があり、総頁も結構あるので、一気に読み切れないのでマイナス一つです。
結論としては流動性維持、リスクヘッジがリスクを大きくする合成の誤謬、あたりなのではないかと解釈したのですが。。。
巨大な災厄をもたらした金融イノベーション ★★★★★
邦訳題名が的外れだというのではないが、原題の”A Demon of our own Design” は「俺たちが魂を入れた魔神」、つまり人間ファウストが契約を結んだ悪魔を思わせる。これが投資世界にかかわるものであることを知らせるために副題は「マーケット、ヘッジファンド、そして金融イノべーションの災厄」となっている。「魔神」とはこの「災厄」の元凶であり、著者によればその災厄は現状ではほとんど避けがたい。それが今や現実のものになってしまったことはわれわれが身をもって知るところである。
それではこの魔神の正体は何か。それは一言でいえば「市場の複雑性」(高度にレバレッジを組み込んだ多種多様な金融商品の市場)とその市場内部あるいは相互間の「密結合」状態(本来はプロセスの構成要素が緊密に連携している状態を指すエンジニアリング用語)である。これだけではまだ抽象的にすぎるかも知れないが、ここから現実に起きている事態、つまり各種のデリバティブズの流通とそれが招来するシステミック・リスクに思いを及ばせることは可能だろう。著者は「金融商品を単純化し、レバレッジを減らすことが、金融市場の制度設計を修正する処方箋である」という。(それは正しい結論だと思われるが、07年に出版された本書が現下の危機が不可避だったと主張しているわけではない。)
本書は幾つもの投資銀行でリスク・マネジメントの実務に従い、半ばは学者でもある著者の実践と研鑽にもとづいた力作である。ここに紹介した結論に到達する以前に描かれた80年代以降の投資銀行各行の浮き沈みはこの世界に渦巻く欲望の強烈さと幾多の大銀行がそれに立ち向かい、危うく立ち直った、リスクの巨大さを改めて思わせる。賢人賢者と讃えられる投資世界の大御所たちがITバブルでは一敗地にまみれていることも興味をそそる。著者はヘッジファンドとは定義不能と考えているようである。たとえそうでないとしてもその定義には明らかに手を焼いている。そうとすればリスクを対象とする本書を細部まで理解できなくても恥とするには当たらない。