う〜む・・・
★★★★☆
吉本隆明氏の熱心な読者ではないと言うより、義務感から何冊か挑戦してみるけれど、その度に残念な結果になってしまう(書いてあることが理解できず放棄する)私ですが、むしろだからこそ、「知の巨人」という世間の評価を鵜呑みにしている読者であることをまずはお断りしておきます。そして著作がダメならば対談集なら少しは読み易いだろうし、「知の巨人」である吉本氏が論敵をバッタバッタと切り捨てるところを確認してスッカとしたいというまったく持って不純な動機で本書を手にしたこともお断りしておきます。
肝心の読後感ですが、私の第一声は「吉本隆明ってダメじゃん」です。前述した不純な動機の持ち主ですから、こんなことを書く資格はないかもしれませんが、スッカとするどころか、かえって欲求不満になってしまいました(たとえが上品じゃないですね)。本書の全体を通じて、吉本氏は戦後民主主義の欺瞞を繰り返し批判し、保守派も進歩派も批判します。これらの言説はある程度説得力を持っていますし、目を開かれる思いをした点でもありますが、「じゃあ、お前はどう考えるんだよ」という思いが常に残りました。吉本氏の結論として、「国家は解体すべきである」と言う考えとその理由が提示されますが、読解力が乏しく不純な動機の持ち主である私にはあまり説得力を持ちませんでした。それ以上の問題と言うか、唖然とさせられたのは、国家が解体されるとまるでパラダイスのような世界が出現すると考えているらしいことです。氏によれば国家が解体すると
1階級や差別がなくなる
2(関税障壁がなくなることで)経済的メリットが大きく
3相互理解も促進される
というのです。「共同幻想論」などの著作もあり、長年国家について考え続けてきた吉本氏ですから、おそらくはっきりした根拠があると思いますが、本書では紙面の都合か、対談集という性格なのか、根拠が示されていないように感じられます。また北朝鮮が日本に対して宣戦布告した場合の対処として「そのときは『自衛隊は出動して戦うべきか否か』を国民投票にかけ、国民の審判を仰げばよいと思います」と答えていますが、これって本気で言ってるんでしょうか?平時に国民投票をして宣戦布告された場合の基本的なルール作りを決めておくのはまだ意味があると思いますが、有事に際して、それから国民投票していたら、普通に考えればとても間に合わないと思うのですが…。
このように私には説得力を持たなかった本ですが、☆4つなのは、吉本神話を払拭すし、氏の対談集でなく著作を虚心坦懐読むきっかけとなると思ったからです。
あくまでも好き嫌いの問題だと思いますが僕はこの人NGです。
★☆☆☆☆
私は無学なので、著者の他の本を読んだことがないので、著者がどれだけすごい人なのか、
正確には知りません。「知の巨人」と呼ばれている事は知っていますが。
ただ、どれだけすごい人なのか知らずにこの本を読むと「何の根拠があってこんな事を
ほざいているのかこの親父は?」と言う疑問を最後まで拭い去れませんでした。
・まず、あらゆる問いかけに対して全て「それは間違ってます」とか断定口調で答える。
思想家とはそれくらいの信念が無いと務まらないのかも知れませんか。
・実態よりも理念を重んじる。悪く言えば単なる頭でっかち。「憲法9条は理想状態なの
だから、実態が伴っていないと言うのであれば実態をそれに近付ける努力をすべきだ」
とか、「国家は個人より優先されるなんて冗談じゃない」とか、大丈夫かいな、みたいな
理念優先の会話がひたすら繰り返される。
氏の一番評価する政治家は福田赳夫だそうです。「人命は地球より重い」と言ったあの人
ですね。吉本氏の視点には、より多くの国民を救うために、断腸の思いで一部の国民に
犠牲を強いらざるを得ない政治家の苦悩なんか眼中にないんだろうな。
そもそも本の題名そのものが、小林よしのりの「戦争論」を意識して、それに便乗するか
のようないやらしさを感じる。「彼の思想には新しいものがない」と批判してましたが、
この人からも何の新しい思想も感じませんでした。
お金をかけて読む価値は全くない本です。
小さな気持ちを大切に
★★★★☆
この本では、吉本さんが「戦争」に対する考えを語っています。私が印象に残ったのは、「戦争を経験した文学者の姿勢」について述べているところです。具体的には、作家・島尾敏雄が戦争中に経験した自身の「心の葛藤」に対し向き合って描いたことを評価している箇所です。
戦争・平和・政治制度といった大きな問題を考える以前に、自分自身が感じた小さな気持ちにちゃんと向き合うことが大切なんだということを教わりました。
共感できない部分もあったが、よい勉強になった
★★★★☆
興味深く読めた。
著者の意見には賛成できる点もそうでない点もあったが、単純に共感、反感という部分を超えて、著者のとてつもない知識量と思考力と視野の広さに素直に感心した。
さすがは思想界の巨人といわれているだけのことはあるな、といった感じ。
歴史や思想の勉強になった。ベタな言い方をすれば、これはタメになる本だった。
私がもっとも印象に残っているのは、著者が従軍慰安婦への国家による補償についての考えを述べた箇所。
著者は、元従軍慰安婦として恥を捨てて世間に出てきたのだから、たとえそれが事実ではなくても日本国家は補償するべき、と主張していたが、いくらなんでもそれはメチャクチャだろうと思った。
著者は基本的に左翼的な思想の持ち主だと思う。マルクスに非常に影響をうけた、と自ら語っていたのも納得だった。
貴重な戦後史の証言
★★★★☆
保守派・進歩派を超えたところで、著者の独自の世界観が展開されます。個人的な戦争体験に裏打ちされながら、思想性をもつまでに純化されているところが、著者らしくもあり、小気味良いとともに、どうしてもチョムスキーにも似た危うさを感じてしまいます。それは、歴史的文脈から離れた、個人的経験からくる限界でしょうか。国際政治の現実への妥協を拒否する姿勢は、それはそれで一つの見識ですが、人類はそこまで賢明になったのか。いずれの立場をとるにせよ、同時代人(と言っては著者に失礼かもしれませんが)として、著者の拠って立つ個人的経験としての戦後史は、振り返る価値ある一冊です。