楽器の歴史だけでなく構造を知る上でも有用な書籍
★★★★☆
古い楽器の写真が多く掲載してありますが、そのモデルとなった楽器をかなり展示している浜松市楽器博物館を何回も訪れるほど、楽器の歴史には興味を持っています。
本当は、博物館で楽器を実際に眺めてもらうのが一番理解しやすいと思いますが、本書のように手軽な書籍があれば、楽器に対する理解や愛情が育つように思います。
本書は全ての音楽愛好家にとって、とても有用な書だと思っています。全ページカラーで分かりやすい図解と説明がついていますので、初心者の方にとっては楽器を知るテキストとして利用できるでしょう。またそれぞれの楽器を演奏してきた人たちも改めて各楽器の特徴や細かい解説を読むことで知識は一段と深まると感じました。
バロック時代の古楽器とモダン楽器の音色の違いは感覚として理解していますが、本書のように構造の違いから解説してもらうとその音色の違いがより分かるように思いました。
細かいことですが、50ページに書かれているドイツでサクソフォンが採用されなかったことに関して、アドルフ・サックスがフリーメイスンに加入することを望んだ、ということを知りました。フリーメイソンを認めなかったカトリックの地域で採用されなかった、という結論なら、カトリックの強かったフランスでサクソフォンが生まれた意味が分かりませんし、プロテスタントが生まれて伝統的に強いドイツで広がらなかった関係も理解できません。
他のコラムは蘊蓄に富んでいますし興味深い内容が盛り込まれているだけにこの箇所の掘り下げが必要ではないか、と思われました。
生きた図鑑
★★★★★
貴重な楽器の写真をふんだんに使い、楽器そして音楽の変化・発展を万人にわかりやすく解説しています。現在の音楽そして過去の音楽のスタイルを考えるきっかけとなることでしょう。
カタログのような写真と取ってつけたような解説でまとめた本が多い中、この本は音楽が好きなあらゆる方に読んで、見ていただきたい名著です。
楽器の遷り変わりが写真で一覧できる良書
★★★★☆
主にオーケストラに用いられる楽器をまんべんなく扱われています。古楽器と現代の楽器の違い、各楽器の成り立ちや派生を写真で分かりやすく理解することができます。
オールカラーで入門にはよいと思いますが、ページ数が少なめですぐに読みきってしまいます。もう少しコラムや用語解説があってもよかったかなと感じました。楽器やクラシック音楽をかじりだした人に丁度合う本だと思います。
自分の楽器から読まないで!
★★★★★
楽器研究家で東京藝大講師の佐伯茂樹氏による、オーケストラの楽器図解です。
他の「楽器の本」と違う点は
・カタログの綺麗な画像を敢えて使わず、現役の奏者のものや、博物館に所蔵のものなど、実際に演奏に使われてきた楽器の画像を採用。「音楽を奏でる道具」として伝わってきます。
・各楽器を楽器ごとに分けてまんべんなく解説するのではなく、材料の原産地や種類、文化や合奏の形態、担っている役割、時代、構造、果ては宗教や組織といった様々な観点から、解説を試みています。
といったところです。
さらに重要なことですが、この本には、「であるはずだ」「とも考えられる」「分類は難しい」「かもしれない」など、解説書らしからぬ表現が多く見られます。何気ない言葉ですが、「自分にはわからない」ことを、「わからない」と潔く認めて、そこから「なんとかしてわかろう」「どう考えたらよいのだろう」と、もがいていなければ、決してできない表現です。私はそこに、作者の、楽器、そして音楽の研究に対する、誠実で、徹底した姿を感じます。解説書という体裁ばかりを整えて、根拠のはっきりしないことや、研究がまだ不十分なことまでも、まことしやかに真実であるかのように書かれている「楽器の本」(そしてそれを読みかじった者が振りまく無責任な言説)が世に溢れている中、佐伯氏の姿勢は、「学術研究は如何にあるべきか」という根本の問題を考えさせてくれます。
また、楽器経験者は、まず自分の楽器がどう書かれているかを期待すると思いますが、「自分の楽器が良く書かれていれば、良い本」というような見方をしていては、この本の奥深いところにある楽しみを感じることはできないと思います。あえて1ページ目からゆっくり読んで、歴史の楽しみ、そして音楽の楽しみを感じ取って欲しいと思いました。
追記:フレンチテューバやダブルベルユーフォニアムなどのカラー画像も掲載されていて、大変貴重です。